韓国は6月3日に大統領選挙を実施する。これは、昨年12月に6時間にわたり非常戒厳を宣布した責任を問われた尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領(64)が罷免されたことを受けたものだ。 新たに選ばれる大統領は、尹氏によって引き起こされた政治的・経済的混乱への対応を担うことになる。非常戒厳の宣布は、同国を深刻な混乱に陥れ、世論を二分させた。 今回の大統領選は、韓国がドナルド・トランプ米大統領という予測困難な同盟国のリーダーと向き合う中で行われる。北朝鮮からの脅威や中国との冷え込んだ関係といった長年の課題にも、この状況が影響を与えるとみられている。 人口約5200万人の韓国が、今後5年間のかじ取りを担う新たな指導者を選ぶ選挙について、押さえておきたい点を解説する。 ■なぜ大統領選を行うのか 尹氏は本来、2027年まで大統領を務める予定だったが、その任期は不名誉な形で終わった。 尹氏は昨年12月3日、「反国家勢力」や北朝鮮からの脅威を理由に非常戒厳を宣布し、国民に衝撃を与えた。しかし、その後の報道などから、実際には自身の政治的苦境が背景にあったことが明らかになっている。 その1週間後、韓国の国会は尹氏を弾劾(だんがい)した。今年4月4日には憲法裁判所がこの弾劾を支持し、尹氏を正式に罷免した。これにより、法律に基づき60日以内に大統領選挙が実施されることとなった。 尹氏による戒厳令の試みから6カ月の間に、韓国では3人の大統領代行が交代で政権を担った。直近では、選挙の1カ月前に李周浩(イ・ジュホ)社会副首相兼教育相が大統領代行に就任した。 李氏は、尹氏の後任として大統領代行を務めていた韓悳洙(ハン・ドクス)前首相の後を継いだ。韓氏は、代行就任から数週間後に弾劾され、崔相穆(チェ・サンモク)前経済副首相兼企画財政相が代行を務めたが、3月に韓氏の弾劾訴追が棄却され、韓氏が復職していた。 ■大統領選の争点は? 尹前大統領による非常戒厳の宣布は、韓国国内に深く根付く政治的分断を浮き彫りにした。尹氏の支持派と反対派の双方が街頭に繰り出し、抗議活動を展開した。 数カ月にわたった不透明な状況は、韓国経済に対する国民の信頼を大きく揺るがした。この混乱は、トランプ米大統領が貿易相手国に対して関税を課し、韓国製品にも25%の関税が適用された時期と重なった。 一方、北朝鮮との関係も依然として大きな課題だ。2025年は比較的落ち着いた状況が続いているが、2024年には北朝鮮の最高指導者、金正恩総書記が挑発的な言動を強めたほか、両国が数カ月にわたって宣伝物を積んだ風船やドローン(無人機)を相互に飛ばし合うなど、緊張が高まっていた。 新たな韓国大統領は、最大の貿易相手国である中国と、最も重要な安全保障上の同盟国であるアメリカとの間で、外交関係のバランスを取る必要がある。 さらに、世界最低水準とされる出生率(0.75)に歯止めをかけるという課題にも直面している。 ■有力候補 世論調査によると、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表が、6人の候補者の中で最有力とされており、与党「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)氏がそれに続いている。 李氏は2022年の大統領選で尹氏に僅差で敗れたが、今回の選挙では労働者階級の象徴として支持を集めている。工場労働者から人権派弁護士、政治家へと転身した経歴を持ち、雇用と公正な社会を実現する「真の大韓民国」を築くと訴えている。 一方、前雇用労働相の金氏は、経済のための大統領を掲げ、企業に優しい環境づくりを公約にしている。 そのほかの候補者には、野党「改革新党」の李俊錫(イ・ジュンソク)氏、同「民主労働党」の権英国(クォン・ヨングク)氏、そして無所属の黄教安(ファン・ギョアン)氏と宋鎮鎬(ソン・ジンホ)氏が名を連ねている。 なお、今回の選挙では18年ぶりに女性候補が出馬していない。韓国で初めて女性が大統領選に立候補したのは1987年の洪淑子(ホン・スクチャ)氏だったが、投票日前に辞退した。2012年の選挙では4人の女性候補が出馬した。 ■投開票の予定は 大統領選は6月3日に実施され、投票は午前6時から午後8時までできる。在外韓国人は、5月20日から25日までの期間に事前投票を行った。 開票は投票終了後に始まり、翌日未明には当選者が判明する見通しだ。 2022年の前回選挙では、尹氏が李在明氏を破って当選したが、確定したのは投票終了から約9時間後の午前4時40分だった。この選挙は韓国の大統領選史上最も接戦となり、尹氏はわずか0.73ポイント差で勝利した。 新大統領は即日就任する。過去の多くの大統領とは異なり、正式な政権移行期間がなく、職務開始に向けてじっくり準備することはできない。 ■尹前大統領は今後どうなる? 尹氏は現在、非常戒厳の宣布に関連して内乱罪で起訴されており、裁判にかけられている。 今年1月、捜査当局はバリケードを乗り越え、有刺鉄線を切断して尹氏を拘束。韓国史上初めて逮捕された現職大統領となった。その後、手続き上の理由により、3月8日に釈放された。 検察は5月1日、尹氏を権力乱用の罪でも追起訴した。これは内乱罪とは別の罪状であり、憲法裁判所による罷免決定後に捜査が再開されたものだ。 大統領選を前に、尹氏は所属していた「国民の力」を離党した。専門家らは、同党の大統領候補である金氏の当選可能性を高めるための戦略的判断だったと分析している。 なお、韓国の警察は27日、同じく非常戒厳に絡む内乱容疑で捜査中の韓前首相と崔前副首相に対し、出国禁止の措置を取ったと発表した。 (英語記事 What you need to know ahead of South Korea's snap presidential election)