米国土安全保障省のクリスティ・ノーム長官は28日、衝撃的な内容をSNSに投稿した。不法移民がトランプ大統領を殺害するという脅迫状を送りつけ、暗殺後の自主的な国外退去を約束したとする内容だった。 「ICE(移民税関捜査局)のおかげで、トランプ大統領を暗殺すると脅したこの不法外国人は捕まった」。そう書き込んだノーム長官の投稿には、問題の脅迫状と、逮捕された男性の写真も添えられていた。国土安全保障省はプレスリリースも発表した。 この話は複数の報道機関が取り上げた。親トランプ派は、不法移民の危険性を際立たせ、不法移民を国外へ追い出している政権の実績に脚光を浴びせる目的でこれを利用した。 しかし捜査当局は逮捕された男性について、でっち上げの被害者だったと見ていることを明らかにした。 逮捕されたのはラモン・モラレス・レイエスさん(54)。脅迫状を書いたのはレイエスさんではなかったと捜査当局は見ている。複数の関係者によると、脅迫状は今月21日にICE事務所などの法執行機関に届いた。 捜査当局によれば、レイエスさんは強盗傷害事件の被害者で、その事件に関して罪に問われた別の人物を利する目的で脅迫状が書かれた疑いがある。大統領暗殺の脅迫には信憑(しんぴょう)性がないと捜査当局は見ているという。 関係者によれば、強盗傷害事件で罪に問われた人物は、裁判が始まる前にレイエスさんを国外追放させる目的で、レイエスさんが書いたように装って脅迫状を送り付けた可能性があることが捜査の過程で分かった。 捜査幹部がCNNに語ったところによると、捜査当局はレイエスさんから事情を聴いた結果、脅迫状はレイエスさんが書いたものではなかったと断定した。連邦捜査員がレイエスさん本人の手書き文字を見比べた結果、脅迫状とは筆跡が一致しなかった。 さらに、この脅迫状を書いたと思われる人物がかけた電話を調べたところ、その人物が問い合わせた住所のうち1件が、脅迫状の届いた住所と一致した。 脅迫状は「我々メキシコ人に対する大統領の仕打ちにはうんざりだ」「私は自主的にメキシコに国外退去する。だがその前に自分の銃でお前の大切な大統領の頭を撃つ」という内容だった。 ミルウォーキー警察は29日、「今回の事件に関連したなりすましと被害者脅迫について捜査している」ことを確認した。ただ、捜査が続いていることを理由にそれ以上は明らかにしなかった。これまでのところ立件には至っていない。 レイエスさんは現在、ウィスコンシン州で留置されているが、トランプ大統領に対する脅迫の罪には問われていない。 今回の逮捕と大統領に対する脅迫の容疑について国土安全保障省高官は「脅迫に対する捜査は続いている。捜査の過程でこの人物が不法移民で前科があることが分かった。彼の留置は継続する」とCNNに語った。 一方、ウィスコンシン州東部地区米連邦検察はCNNの取材に対し、この人物に関して訴追された案件は存在しないと語った。 レイエスさんの逮捕に関する国土安全保障省の発表では、レイエスさんについて「1998~2005年の間に少なくとも9回、米国に不法入国した」と述べ、過去にひき逃げや器物損壊、秩序を乱す行為などで逮捕されたことがあるとしていた。 脅迫状を書いたのがレイエスさんだと今も確信しているのかどうかについて、同省はコメントを避けている。