2020年12月。宮崎県日南市で建設業を営む男性は、県警から任意同行を求められた。加盟する日南地区建設業協会は、入札前の話し合いで落札者を決める“調整”を行っていた。そのことで話が聞きたいという。 「業者間の談合はどこでもやっている。あんたたちのやつは大きい問題じゃないから」。談合には目をつぶるかのような口ぶりだった。刑事は続けた。 「『官』が関わった疑いがある工事がある。副市長と協会会長を調べないといけない」 「狙いは市長。逮捕するために協力してほしい」 調べの中心は市長に関する話だった。業者側から金銭が渡ったはずだとしつこく聞かれた。そんな事実はない、と反論し続けた。 副市長の田中利郎被告(68)と当時の会長(71)が官製談合防止法違反容疑などで逮捕されたのは翌年1月。男性に対する事情聴取は警察10回、検察7、8回に及んだ。「いつまでたっても市長を逮捕できないから、次第に捜査の矛先が俺に変わっていった」と振り返る。 男性が落札したのは、誰も応じなかった赤字の工事を協会から頼まれたためだった。それなのに「談合を首謀した」と追及されるようになったという。 納得いかないと伝えると、検事からこう告げられた。「認めて略式にしますか、否認して本裁判にしますか。裁判になればテレビや新聞で報道されますよ」。気持ちが折れた。21年4月に談合罪で略式起訴され、罰金30万円を支払った。