【ベルリン時事】ドイツでメルツ新政権が発足して、6日で1カ月。 これまで関与に消極的だった欧州安全保障をけん引する方向にかじを切り、支持率が上昇するなど内外で評価を高めている。まずは順調な滑り出しを見せたが、強気の政権運営には危うさも伴う。 ◇対ロ防衛で前面 「今こそ、われわれ自身の安保に断固たる投資を」。5月22日、メルツ首相は訪問先のリトアニアで、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に防衛費の増額を呼び掛けた。バルト3国のリトアニアで、独軍は戦後初となる大規模な国外常駐を開始。対ロシア防衛で前面に立つ姿勢を強調した。 ドイツは第2次大戦を引き起こしたナチスの反省から反戦意識が強く、冷戦後は軍備を縮小してきた。だが、ロシアによるウクライナ侵攻と、欧州安保に背を向けるトランプ米政権の誕生を受け、方針を転換した。 メルツ氏は首相就任前から基本法(憲法)改正を主導し、巨額の防衛財源を確保。NATOが合意を目指す国内総生産(GDP)比3.5%の国防費と同1.5%の安保関連支出の目標についても、「達成可能だ」と議論をリードしている。 こうした姿勢が奏功し、公共放送ARDによる今月の世論調査では、回答者の39%が政治家としてのメルツ氏に「満足している」と評価。就任前の4月から14ポイントの大幅増だった。 ◇懸念は「米国第一」 一方、政権にとって最大の懸念材料は、これまで経済・安保両面で頼りにしてきた米国の「自国第一主義」。メルツ氏は6日、トランプ大統領と初の対面会談に臨み、協力的な姿勢を引き出したい考えだ。 閣僚経験のないまま政権を率いるメルツ氏に対しては、発言を危ぶむ向きもある。2月の総選挙直後、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状の出ているイスラエルのネタニヤフ首相について、訪独できる方策を探すと述べ、強い支持を表明。その一方で先月には、パレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍の攻撃に関し「理解できない」と異例の批判を展開し、ちぐはぐな印象を与えた。 政権発足直後には、国境で難民申請を拒む措置を導入。裁判所に「違法」と判断されたにもかかわらず撤回せず、連立与党内から懸念が出た。 政権は、メルツ氏所属の保守政党連合キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と、中道左派の社会民主党による連立。5月の首相指名選挙では、メルツ氏の強硬姿勢を背景に一部議員が造反して、1回目の投票で選出に失敗した経緯があり、政権の不安定化につながる火種はくすぶっている。