イスラエルがイスラム原理主義組織ハマスを標的にパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続ける中、米国でユダヤ系米国人やイスラエル人を狙った殺傷事件が相次いでいる。米国では、イスラエルのガザ攻撃を機にユダヤ系市民に対する暴行などの件数が急増。トランプ米政権は大学での抗議デモも含めて「反ユダヤ主義」と危険視し、大学への圧力を強めてきた。一部のユダヤ系団体はトランプ政権の対応がかえって「ユダヤ人の安全を脅かす」と懸念を示している。 「全てのシオニスト(ユダヤ民族主義者)の人々を殺害したかった」 米西部コロラド州ボルダーで起きたイスラエル支持者襲撃事件で逮捕されたモハメド・サブリ・ソリマン容疑者(45)は、米連邦捜査局(FBI)の捜査官に対しこう供述した。 事件は6月1日、ボルダーの歩行者天国で発生。ソリマン容疑者がイスラエル支持を訴える群衆に火炎瓶などを投げ入れ、12人が重軽傷を負った。ソリマン容疑者は襲撃の1年前から犯行を計画していたという。 5月21日には首都ワシントンのユダヤ博物館近くで銃撃があり、イスラエル大使館職員2人が殺害される事件が起きたばかりだった。逮捕された男は「パレスチナに自由を」と叫んでいた。 米社会では、2023年10月のハマスによる奇襲以降にイスラエルが行ったガザ攻撃を機に、ユダヤ系市民への圧力が強まっている。米ユダヤ人団体「名誉毀損防止同盟(ADL)」によると、反ユダヤ主義に基づく暴行や嫌がらせなどが確認された件数は23年10月から24年1月までの3カ月間で前年同期比361%増の3291件に達した。 トランプ大統領は今年1月の就任直後から、反ユダヤ主義対策を強化する大統領令に署名し、イスラエルへの抗議デモが起きた全米各地の大学への締め付けを強めてきた。これに関し、ユダヤ公共問題評議会は4月に発表した声明で、トランプ政権の対応は「ユダヤ人の安全を脅かしている」と警告。パレスチナを支持する留学生の査証(ビザ)剝奪などに反対する姿勢を示した。(岡田美月)