大津市で昨年5月、保護司新庄博志さん=当時(60)=が保護観察中の無職飯塚紘平被告(36)=殺人罪などで起訴=に自宅で殺害された事件で、法務省が飯塚被告の保護観察記録を個別に調査し、分析結果を明らかにした。事件のキーワードに「就労」を挙げ、「頻繁に離職を繰り返し、不安定な心理状態に陥った」などと分析した。同省は6月から保護観察を強化する新たな対策に乗り出している。事件は8日で飯塚被告の逮捕から1年を迎える。 日本更生保護協会が発行する冊子「更生保護」5月号に、法務省保護局の勝田聡観察課長が寄稿した。飯塚被告の公判は起訴から半年がたっても始まっていない。裁判所の事実認定より前に、国が分析結果を明らかにするのは異例とみられる。 飯塚被告は強盗罪に問われ、大津地裁で保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を受けた。2019年7月から新庄さんが保護司として被告の支援を担当していた。寄稿では、就労の続かない飯塚被告に対し、新庄さんらが「あの手この手で指導・支援を続けていた」と説明。生活状況の報告や相談もしていたといい、「表面上は大きな問題が見えなかった」とした。 一方、約5年間に頻繁な離職があり、最終的に不安定な心理状態につながったとした。自他に対する否定的な感情が高まり、第三者に攻撃的な言動をするようになった後、交友も趣味も放棄してひきこもりに至ったという。「これらは同時に起きたのではなく、数カ月の間に徐々に生じ、目に見えにくい変化が蓄積していた」と指摘した。 国が6月から始めた保護観察の運用見直しにも言及している。これまでは保護観察官が1、2回の面接を経てすぐ保護司に引き継ぐケースが多かったが、今後は手続きの迅速性よりも、保護観察官による「見立て」を重視するとした。 具体的には、対象者の保護観察開始3カ月以内を「重点的なアセスメント(評価)期間」と位置づけ、面接による丁寧な生育歴の聴取▽少年鑑別所と協力した心理検査の実施▽検察庁からの情報提供の充実―などに取り組む。その上で保護司に担当を依頼するか判断する。対象者の変化を把握し、科学的根拠に基づいて再犯リスクの高まりを評価する手法も導入するという。 勝田課長は「事件の教訓を踏まえ、二度と同じ悲劇を繰り返させないという固い決意の下、力量を高め、努力を積み重ねたい」と結んでいる。