「脱出(escape)」の意味から命名された台湾の会社が作ったゲームを巡り、中国当局が神経をとがらせている。ユーザーは台湾やチベット、ウイグルなどの「所属先」を選び、共産党政権を打倒するシナリオで遊べるためだ。分離独立を絶対に許さない強硬姿勢の中国政府にとって「たかがゲーム」とはいかず、芽を摘みたいようだ。欧米メディアが報じた。 香港警察がダウンロードの禁止警告を出したゲームは、ESC台湾が4月にリリースした「Reversed Front: Bonfire」。「反転 かがり火を掲げよ」という意味で、プレーヤーは台湾、香港、モンゴル、チベット、ウイグル、カザフ、満州などから勢力を選択し、扇動したり、スパイやゲリラとしてプレーしたりして、中国を想定した人民共和国を打倒できる仕様になっている。 製品説明の内容も、中国政府にとっては見過ごすことができないようだ。同ゲームの世界観は、共産党が周辺勢力を支配し「残虐な植民地帝国」を形成しようとしているというもの。ESC社はホームページでゲームは「ノンフィクション作品」だと紹介し、登場する共産党の機関名や政策、民族名の現実との類似性は「意図的な設定」としている。 香港では、国家安全維持法(国安法)の導入後、大手紙の蘋果(ひんか)日報(アップルデイリー)創業者、黎智英(れい・ちえい=ジミー・ライ)氏が逮捕されるなど、中国政府を批判する民主派の弾圧が続いている。 香港当局は、「Reversed Front: Bonfire」について、「ゲームを装って、武力革命をあおっている」と主張。11日には香港警察がアプリをダウンロードしないよう求め、既にダウンロードした人に対しても「すぐにアンインストールし、法律を破ろうとするな」と警告を発した。 英紙ガーディアンによると、ゲームを所有していることが判明した場合、「扇動的資料の保持」や「分離独立派であるゲーム会社への資金提供」などの疑いで逮捕される可能性があるという。 ESC側も黙ってはいない。英BBC放送は、ESCがSNSで「警察の声明により香港全土でゲームの知名度が増した」としたうえで、「正常なダウンロードを行うにはIDを香港以外の国や地域に変更することをお勧めします」と告知したと伝えている。