「生家なくなった」悔やむ元所有者 65万円物件に4900万円の保険 エース調査員放火

岡山県美咲町で起きた保険金目的の放火事件で全焼した古民家の元所有者の男性(71)が産経新聞の取材に応じ、紆余(うよ)曲折を経た売買交渉の経緯を明かした。 「住民票を移さず、二重生活をしたい。物件を売ってくれないか」。男性は令和4年1月、空き家になっていた生家の買い取り話を持ち掛けられた。不動産会社を通じて接触してきたのは、川崎市の自称ブロガーの男(27)だった。 生家は岡山市内から車で1時間ほどの山間部にある築100年以上の古民家。男は土地・建物を合わせて50万円という価格を提示してきた。もともと250万円を希望していた男性は「足元を見られている」と不信感を抱きつつ、交渉を続けた。 その後、交渉には男の親族を名乗る人物が介入。不動産関係の知識が豊富で、司法書士を自前で用意し登記変更などを行う、と言い出した。男性は旧知の司法書士を使うと譲らなかったが、農機具などの不用品の処分費用を男側が負担することを条件に売却価格は65万円で決着。「早く契約したい」とせかされ、4月半ばに契約を締結することで話がまとまった。 ところが直前になって男は「法人契約にしたい」と述べ、男性が渋ると、今度は「契約者を幼なじみに変更したい」と要望してきた。男性は戸惑いを覚えつつも了承し、別のアルバイトの男(27)に売り渡した。 その後、男らは古民家の建物などに総額4900万円を受け取れる共済をかけたとされる。 男らは時折、古民家に出入りしていたとみられるが、売却から約1年半後に全焼。今年4月、稲葉寛被告と深町優将被告に加え、古民家の売買交渉に関わった男2人も逮捕された。 男らは共済団体側の調査に「古民家を1千万円で買った」と説明したとされる。交渉の際、男に言われるがまま相手側の司法書士を使っていればより巧妙な隠蔽(いんぺい)工作が行われた可能性も否定できない。男性は「怪しい点はあったのに。生まれ育った家がなくなり、近所にも迷惑をかけた」と唇をかんだ。

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