裁判長「刑事司法を揺るがす」 不当捜査を認定 中3殺害、再審無罪

1986年に福井市で中学3年の女子生徒(当時15歳)を殺害したとして、殺人罪で懲役7年が確定し、服役した前川彰司さん(60)に対するやり直しの裁判(再審)で、名古屋高裁金沢支部は18日、無罪判決を言い渡した。 増田啓祐裁判長は「前川さんが犯人であることの立証がされていない」と述べた上で、警察、検察の不正・不当な捜査・公判活動があったと認定。「刑事司法全体に対する信頼を揺るがせかねない深刻なものだ」と批判した。 弁護側は判決言い渡し後、検察側に上訴権の放棄を申し入れた。検察側が放棄すれば再審無罪が確定する。刑事事件を巡っては近年、再審無罪判決が相次いでおり、再審制度の見直しの機運がさらに高まりそうだ。 事件では、前川さんと事件とを結びつける有力な物証はなく、再審の争点は、前川さんが事件に関与したとする関係者供述の信用性の是非だった。検察側は「証言はそれぞれが支え合い、高め合っていて信用できる」と主張していた。 判決は、事件の捜査に行き詰まっていた警察が「前川さんが犯人だ」と最初に供述した元暴力団組員の情報を頼りに、関係者を不当に誘導し、なりふりかまわず供述を得ようとしたと指摘。こうして集められた関係者の供述はいずれも信用できないとした。 さらに、検察が自らに不利益な証拠を確定審に提出せず、正しい事実関係を前提とした主張・立証の機会を奪ったことも認定。「真実とは異なる心証を抱かせたまま、有罪判決を確定させている。不誠実で罪深い。率直に言って失望を禁じ得ない」とした。 判決は、これらを踏まえ、1審・福井地裁の無罪判決(90年9月)に誤りはないと判断し、検察側の控訴を棄却した。名古屋高検の浜克彦次席検事は「判決内容を精査して、しっかり対応したい」とコメントした。 事件は86年3月、福井市で起きた。中学3年の女子生徒が自宅で、死亡しているのが見つかった。逮捕・起訴された前川さんは一貫して関与を否定。1審は無罪だったが、名古屋高裁金沢支部判決(95年2月)が懲役7年の逆転有罪を言い渡し、確定した。第2次の再審請求で、名古屋高裁金沢支部が2024年10月、再審開始を決定していた。【国本ようこ、萱原健一、丘絢太】 ◇福井・中3殺害再審 名古屋高裁金沢支部判決(骨子) ・捜査に行き詰まった警察が、うその供述を基に、関係者の供述を不当に誘導した ・検察は不利益な証拠を確定審に提出せず、主張・立証の機会を奪った ・前川さんが犯人であるとの立証がなされていない。前川さんは無罪

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