抗議が2夜目に突入、西側も懸念 ウクライナの反汚職機関の独立性制限する新法めぐり

ラウラ・ゴッツィ記者(ロンドン)、シャーロット・ギャラガー記者(キーウ) ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、二つの反汚職機関の独立性を制限する法律に署名したことを受け、政府に対する反発が強まっている。首都キーウでは23日夜、2夜連続となる大規模な抗議デモが行われ、参加者らは政府を批判するプラカードを掲げた。 問題となっている新法は、国家汚職対策局(NABU)と特別汚職対策検察庁(SAP)を検事総長の管理下に置く内容。 ゼレンスキー大統領は抗議の高まりを受けて国民の怒りを認め、別の法案を議会に提出する意向を示したが、その内容については明らかにしていない。 ウクライナの西側の友好国も、この新法に不満を表明した。ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長の報道官は、ウクライナ政府に対し「説明」を求めたと述べた。 ゼレンスキー大統領は、NABUとSAPが長年にわたって刑事手続きを停滞させていると主張。「ロシアの影響から浄化される必要がある」として、新法の正当性を訴えた。 この法案は324人中263人の議員の賛成を経て、22日深夜に署名された。 しかし、議会外では多くのウクライナ国民がこの決定に反対している。抗議参加者らは、この法律がNABUとSAPの権限と実効性を著しく損なうと警鐘を鳴らしている。 ロシアによる夜間空爆の脅威が続く中、22日には大統領府前に数千人が集まったほか、南部オデーサ、東部ドニプロ、西部リヴィウ、北東部スーミなどでも小規模な抗議が行われた。 23日夜には、キーウ中心部の広場に再び数千人が集まり、若い退役軍人の姿もあった。 参加者らは歌やスローガンを唱え、「恥を知れ」、「12414(新法)は1984のようだ」、「議会は寄生虫の巣窟だ」などと書かれたプラカードを掲げた。 活動家らは今回の動きを、10年前の、ヴィクトル・ヤヌコヴィチ氏が率いた親ロシア派政権時代への逆戻りと見ている。 今回の抗議は、2022年にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以来、最大規模の反政府デモとなっている。 汚職対策は、ウクライナの欧州連合(EU)加盟への道と密接に関係している。ウクライナは西側との関係強化を目指して2014年のマイダン革命でヤヌコヴィチ政権を打倒し、EU加盟を目指してきた。 NABUとSAPの設立は、欧州委員会と国際通貨基金(IMF)が、ウクライナとEUの間のビザ(査証)緩和の条件として10年以上前に提示した要件の一つだった。 2022年、ウクライナはEU加盟候補国の地位を獲得し、欧州との関係強化で大きく一歩進んだ。 しかし現在、ゼレンスキー大統領の決定が、ウクライナと西側諸国との接近を損なう可能性があるとの懸念が広がっている。キーウでの抗議では、「汚職が生き延び、未来が死ぬ」と書かれたプラカードも見られた。 フォン・デア・ライエン委員長の報道官は、法の支配と汚職対策はEU加盟の「核心的要素」であり、候補国であるウクライナにはその基準を守ることが求められると強調した。また、「この点での妥協は許されない」とも述べた。 ウクライナにおける汚職は深刻な構造的問題とされており、同国は現在、反腐敗団体「トランスペアレンシー・インターナショナル」が発表する「腐敗認識指数」で180カ国中105位に位置している。依然として低いものの、NABUとSAPが設立された2014年と比べ、順位を39上げている。 両機関はこれまで、各省庁やさまざまな分野における数百万ドル規模の資産の不正流用や、贈収賄に関する大規模な捜査に関与してきた。 2023年には、両機関の合同捜査により、ウクライナ最高裁判所のヴセヴォロド・クニャーゼフ長官が300万ドル(約4億3800万円)の賄賂に関連して逮捕された。また今月初めには、NABUがオレクシー・レズニコフ前国防相の自宅を捜索していたことも明らかになっている。 しかし今後、NABUとSAPは大統領の監督下で活動することで、政府に近い有力者が捜査の対象から外れるのではないかとの懸念が広がっている。キーウでの抗議に参加したある市民は、ラジオ・リバティーに対し「政府は、何年もかけて築いてきたすべてを破壊した」と語った。 ロシアの進行を受けた戒厳令下で全国的に大規模集会が禁止されているにもかかわらず、23日夜にはウクライナ各地でさらに多くの都市において抗議活動が行われるとみられている。 ウクライナのニュースサイト「ウクラインスカ・プラウダ」は、この「スキャンダラスな」新法が「ウクライナの欧州統合プロセスに重大な打撃を与えた」と報じた。また、「ジェルカロ・ティジュニャ」は、ゼレンスキー大統領が「権威主義への一歩を踏み出した」と警鐘を鳴らした。 著名な戦争退役軍人マシ・ナイエム氏は、自身のフェイスブックで5万4000人のフォロワーに向けて、戦争の犠牲者への「義務」としてキーウでの抗議に参加したと報告。「私は国家と国民、そして民主主義のために戦った」と述べた。 欧州の友好国からも、懸念の声が上がっている。ドイツのヨハン・ヴァーデプル外務次官は、この法律が「ウクライナのEU加盟への道を妨げた」と述べた。フランスのベンジャマン・アダッド欧州問題担当相も、ウクライナ政府に対し決定の撤回を求めた。 23日、NABUとSAPは共同声明で、汚職と闘うために必要な保証を奪われたと訴えた。そのうえでウクライナ国民に対し、「信念ある姿勢、積極的な支援、そして関心」に感謝の意を示した。 トルコ・イスタンブールではこの日、ロシアとウクライナによる3回目の協議が始まったが、多くのウクライナ国民の関心は新法に集中していた。これは、両国どちらからも、協議の進展に具体的な期待が持てないことも一因とされている。 リヴィウ在住のリザさんはラジオ・リバティーに対し、「これは政府による無法行為だ。私たちはロシアだけでなく、自国政府とも闘うようなことはしたくない」と語った。 (英語記事 Backlash grows after Zelensky strips anti-corruption bodies of independence) ■ More on this story

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