刑事手続きのあり方を検討する法務省の有識者協議会は24日、取り調べの録音・録画(可視化)の対象範囲の拡大などについて意見を取りまとめた報告書を公表した。日本弁護士連合会側は一部に限られている録音・録画を全事件に拡大すべきだとしたのに対し、警察・検察側は捜査への弊害があるとして拡大の必要性を認めなかった。制度改正の結論は得られず、法務省は新たな会議体の設置も含めた対応を検討する。 2019年に全面施行された改正刑事訴訟法は、裁判員裁判対象事件や検察の独自捜査事件で、逮捕・勾留された容疑者の取り調べの全過程録音・録画を義務付けた。改正法は付則で3年経過後に制度のあり方を検討し、必要な措置を講ずるとしており、刑事法の学者や法曹三者、警察庁からのメンバーが検討を重ね、24日が最終回だった。 取り調べの適正化を巡っては、録音・録画された状況下でも検察官の威圧的、侮辱的な取り調べが近年相次いで発覚している。検察当局は25年4月から、逮捕・勾留せず在宅起訴が見込まれる「在宅事件」でも録音・録画の試行を始めた。 協議会の議論で日弁連のメンバーは、適正な取り調べを確保するため、容疑者が逮捕・勾留された全事件に録音・録画を拡大することは必須と主張した。これに対し、警察のメンバーは、容疑者の供述を得にくくなる側面があるうえ、機材の整備など財政的な負担が大きくなって捜査に支障が生じると反論。検察官のメンバーも「対象事件以外では、ほとんど供述の任意性が争われていない」とした。 容疑者以外の取り調べも録音・録画の対象にするか▽取り調べへの弁護人の立ち会いを法制化するか――といった点も議論が平行線に終わった。 報告書は、検察が録音・録画の対象を在宅事件に拡大したことは「協議会の議論を踏まえたものと評価でき、着実に取り組むことを期待したい」とした。 改正法で他人の犯罪を捜査機関に明かす見返りに自分の刑事処分などを軽くしてもらう日本版の司法取引(合意制度)も導入されたが、現時点で広く活用されている状況にあるとは言えないとし、より積極的な活用を促した。本人の犯罪についても適用できる新たな制度も検討すべきだとした。 制度改正や運用見直し、刑事手続きにおける新制度の導入については、引き続き検討することを要望した。【三上健太郎】