7月1日に開廷した「ルフィ」広域強盗グループの幹部・小島智信被告(47)の裁判。前編記事では小島被告がグループの中でのし上がっていく過程や、ボスとして君臨していた渡辺優樹被告(41)の巧妙な組織作りについて詳報した。後編では、小島被告が幹部3人の人間性について語った内容や、検察側の証人として出廷した別の幹部の証言を掲載する。 10回にわたる公判の中で、法廷が最も色めき立ったのが7月9日と11日の2回。同じくグループの幹部である藤田聖也被告(41)が証人として出廷した瞬間だった。 公判中の検察の言葉から推測するに、グループ幹部の今村磨人被告(41)と渡辺被告は強盗に関する取り調べに黙秘を貫いているようだ。つまり、小島被告と藤田被告の証言は、今後の幹部の裁判においても、極めて重要な意味を持つ。しかし、両者の証言は大きく食い違うのだった――。 小島被告が冒頭陳述で「この4人は仲良し4人組ではない」と述べたように、幹部たちの複雑な人間関係を象徴するやり取りはいくつもあった。藤田被告は小島被告について、「(自分より)立場が上の怖い存在だった」と明かし、その上で「小島さんは人を殺していますから」とも述べた。 ところが小島被告は、「人を殺した」という発言などを含めて「藤田の言っていることは8割が嘘。驚いています」と真っ向から否定。そして、「藤田と渡辺が今村をシャブ漬けにした上で殺し、今村のシノギを全部奪うことを計画していた」と証言した。 小島被告の証言の中で特に興味深かったのは、「ルフィ」グループの黒幕だと報じられている「JPドラゴン」との関係だった。渡辺被告をトップとした特殊詐欺グループ(ルフィグループの前身)は、JPドラゴンと敵対関係にあったという。 ◆藤田被告の殺害計画 小島被告の証言によれば、渡辺被告が率いていた特殊詐欺グループの全メンバーがフィリピン当局に拘束されたことがあった。そこで当局にパイプを持つJPドラゴンの人間が“仲介”を申し出て、渡辺被告が5500万円をJPドラゴン側に支払うことでメンバーたちは解放されたという。 しかし、この拘束自体、JPドラゴンが“仕組んだ”ものであり、それに気づいた幹部たちは敵対意識を強めていったが、結果的に渡辺被告が組織した「本部箱」に加え、ビジネスや詐欺に関わる人材をJPドラゴンに奪われたという。 煮え湯を飲まされたJPドラゴンと今村被告が組んで覚醒剤ビジネスを行って渡辺被告と藤田被告の怒りを買ったことが、今村被告の殺害計画が持ち上がった一因となった、というのが小島被告の考えだ。なお、’21年から順次ビクタン収容所に収容された藤田、渡辺、小島被告よりも先に収容されていた今村被告は、京都などの強盗事件に関与していることも当初は他の幹部に否定していた、とも述べている。 幹部たちが脱獄するための資金作りを目的に広域強盗事件を起こし、覚醒剤の密輸を試みたと小島被告は公判で明かしている。監視がゆるい地方刑務所に移った後、職員に賄賂を渡して脱獄し、コロンビア経由でスペインに渡るつもりだった、というのだ。 また、この公判では広域強盗事件における幹部たちの役割についても一定の証拠が示されている。今村被告が計画立案と犯行時の実行役への指示などを担当。渡辺被告が日本からフィリピンへの送金などのカネの手配と藤田被告への指示を行い、藤田被告が実行役に指示を出す。そして小島被告が、藤田被告から依頼を受けて実行役を調達するという細かい役割分担があった。藤田被告を間に挟み、小島被告と今村被告が直接やり取りすることを避けた理由について、小島被告本人が以下のように法廷で語っている。 「実行役を手配する私の知り合いの業者に対して今村が支払いを拒み、そのことで大喧嘩をしたのです。『今村とはビジネスはできない』と決別した。以降は藤田を通して報告を受けていました」 幹部たちの実行役に対しての扱いについても、小島被告は次のように証言している。それは、いかに実行役が軽んじられていたかを示していた。 「一部の強盗事件の実行役に対して、支払いをするつもりがなかったものもある。(逮捕が前提で)常に実行役のストックがあった。運良く逮捕を免れた一部の実行役は、二次利用、三次利用されて報酬が支払われた者もいますが、基本は支払うつもりがなかったという認識がある」(小島被告) ◆幹部3人の人間性 小島被告は、幹部だった3人の人間性についても触れている。 今村被告が覚醒剤中毒者で、「20年戦士だ」と自ら語っていたこと。手掛ける覚醒剤が「キヨトブランド」として北海道でブレイクしていること。そして『和牛のキヨト』とあだ名がつくほど収容所内で羽振りがよかったこと。その一方で、強引に物事を押し進めようとする姿に危険を感じたことも多々あったという。 藤田被告については「暴力的な人間」であり、「収容所内で渡辺被告との距離が近くなっていった」と説明し、「強盗に関しては渡辺被告よりも藤田被告が主に関わっていたと思っていた」などと述べている。 渡辺被告に関しては「病的なケチだった」「誰のことも信用していない」「特殊詐欺のビジネスよりもカジノで稼いでいたお金が多いように映った」などと述べつつも、「救ってもらった恩義も感じている」と繰り返した。 小島被告の証言に対し、藤田被告の証言は、的確で短くまとめられたものが目立った。 小島被告に対して「詐欺組織のお金と人事を握れば、組織内で影響力を持てる」「個人情報を握っているので(従業員に対して)逃げられないような圧力を持っていた」「頭の回転が速い嘘をつく人」「ボスである渡辺と直接話せる数少ない人間だった」「ナンバー2だと思っていた」などと述べた。 その上で、一連の強盗事件については「報酬をもらってない」とも述べた。小島被告の弁護人からの質問にも淡々と答えていた藤田被告が、感情をあらわにした場面があった。ビクタン収容所での生活に話が及んだ際のことだ。 「本当に地獄のような場所で、報道されているような“金を支払えば自由がある”ような場所ではない。(生活が)本当にキツかった」 以降、饒舌になった藤田被告を裁判長が声を荒らげて制止する場面も見られた。法廷内での落ち着いた応対と言動、収容所での生活に言及した際の姿と、実行役らの公判で語られた藤田被告の人間像との間に、少しの乖離を感じる一面もあった。 実行犯の多くが控訴する中、懲役20年の判決が下った小島被告の判断には注目したい。いずれにしろ、小島被告と藤田被告の存在は、グループの実態を解明する上で大きな意味を持つことは間違いない。 取材・文:栗田シメイ