社説:京大生の試験不正 組織ぐるみ解明し、防止策を

2年で800人を超える組織ぐるみのカンニングの規模と、巧妙な手口に慄然(りつぜん)とする。 英語検定試験「TOEIC」(トーイック)の会場で、他人を装って受験したとして、有印私文書偽造・同行使などの疑いで京都大大学院2年の中国籍の男が、警視庁に逮捕された事件である。 院生は5月、東京の同試験会場で、マスク内に小型マイクを隠して来場し、当初は建造物侵入の疑いで逮捕された。試験前、TOEICの運営協会から「毎回のように試験を受けに来る人がいる。名前が違うのに同じ顔写真」との相談を受けた警察が、会場を警戒していた。 これまでの捜査で浮かび上がったのは、大がかりな不正受験の実態だ。受験票で別人になりすました京大院生は、テストに答えて会場内の他の受験生に解答を教える役割で、マスク内側に装着したマイクに小声で吹き込む仕掛けだったとみられる。通信機能付きのメガネ「スマートグラス」も着用していた。 他の受験者は耳に米粒大の骨伝導イヤホンを入れ、解答を聞いていたとされる。接続機器が隠されたペンダントを首からぶら下げ、イヤホンやスマホと通信連動させる手口という。警察は、イヤホンなどを別の試験会場で受験者から押収した。 運営協会によれば、不正に関与した受験者は2023年5月から今年6月で計803人に上り、試験結果の無効や、5年間の受験資格剝奪を通知した。 いずれも京大院生と同じか、酷似した住所で申し込まれており、不正は住所の近い人が同じ会場になる仕組みを悪用した可能性がある。 京大院生は英語力に優れ、「昨冬ごろ、試験を受けたら報酬を渡すと中国語でメッセージが届いた」と供述。中国人組織が関与している疑いがある。 SNS(交流サイト)では、カンニングを有料で支援するといった中国語の投稿がみられる。警察は全容解明へいっそう踏み込んだ捜査が欠かせない。 専門家などは、中国の大学院進学志向の高さを指摘する。経済の低迷で就職難が進む中、学歴で有利になる大学院志願者は、この10年で3倍以上に増えている。受験競争の過熱で、志望の大学院への進学が難しくなった場合などに、日本を目指すケースが少なくないという。 その入試で、TOEICの点数を合否基準などに活用している日本の大学院は約8割に上る。 カンニングに関わったとみられる中国人受験者は、警察の調べに「大学院入学に高得点が必要だった」「SNSで見つけた業者に5万円を払った」などと説明している。 TOEICは就職採用などにも使われており、信頼性が揺らぎかねない事態である。協会は原因の分析と防止策を徹底し、広く周知しなければならない。

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