医療機器の選定・使用で便宜を図る見返りに機器メーカー側から現金を受け取っていたとして、長野県佐久市の医師2人が収賄容疑で警視庁に書類送検された。機器を使うごとに付与した「ポイント」に応じて、私的な飲食代などを肩代わりするという形で便宜を図っていたという。こうした「ポイント制度」を使った汚職は別の病院を巡る同種事件でも確認されており、業界に詳しい識者は、背景に医療業界特有の構造がある可能性を指摘する。 ■領収書を「精算」 1ポイント=1万円-。佐久市立国保浅間総合病院の整形外科部長、有吉大被告(46)と同科医長、中村洋被告(45)=いずれも収賄罪で在宅起訴=は、医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」(日本MDM)の担当者からこんな提案を受けたという。 医師2人と日本MDMの営業担当社員(47)ら男3人=いずれも贈賄罪で在宅起訴=は令和3年秋ごろから、こうした独自のポイント制度に基づき現金のやり取りを開始。背骨の中にある神経の通り道「脊柱管」の処置に用いるMDM製機器などを使うたびに、機器の種類や症例に応じて、ポイントを付与した。 医師2人は、私的な飲食代や出張時の土産代といった領収書の画像を社員らにLINE(ライン)で送信。社員らは別の医療関係者に対する接待費名目で会社に経費請求して賄賂の原資を捻出し、付与したポイントの上限額に応じて領収書分の金額を渡していた。 捜査関係者によると、医師2人はこの仕組みに沿って、昨年5月までに計58万円の現金を受け取っていたという。 ■類似事件摘発で中止 不正がストップしたきっかけは、他の病院で行われていた「同一のスキーム」が表面化したことだった。 昨年4~5月、医療機器メーカー「HOYAテクノサージカル」の担当者から賄賂を受け取ったとして、東京労災病院(東京都大田区)の整形外科副部長らが警視庁に収賄容疑で逮捕された。国保浅間総合病院の事件と同じく、1ポイントにつき1万円の「ポイントシステム」を構築。メーカー側が自社製品を優先的に使用してもらう見返りに現金を渡していた。 捜査関係者によると、東京労災病院の事件が発覚したのを受けて、日本MDMの社員らはポイントの付与を中止。ただ、医師側に既に付与されたポイントの残り分については、律儀に〝精算〟を続けていたという。