7月にスタートしたテレビ朝日のドラマ『大追跡~警視庁SSBC強行犯係〜』(以下、『大追跡』)。舞台となる警視庁「SSBC(捜査支援分析センター)」は、最先端の技術と分析力で事件解決に貢献する実在の専門組織だ。設立以来、犯罪捜査に重要な役割を果たしてきた。SSBCとはどんな組織で、日本国内外に類似組織は存在しているのか探ってみたい。 ◼️「SSBC」とはどんな組織なのか? 警視庁SSBCは、2009年に発足した実在の組織である。犯罪の広域化やデジタル化といった現代の犯罪情勢に対応するのがミッション。SSBCの業務は大きく2つの柱に分けられる。1つは、防犯カメラの画像解析や電子機器の解析を主とする「分析捜査支援」。もう1つは、犯罪の手口などから犯人像を分析するプロファイリングを主とする「情報捜査支援」だ。その活動は多岐にわたり、数々の重要事件で成果を上げてきた。 実例を見てみよう。注目を集めたのが、2019年に発生した秋篠宮家の長男・悠仁親王が通う中学校に男が侵入した事件だ。SSBCが防犯カメラ映像を分析して犯人を特定し、マスメディアで大きく報じられた(※1)。また、2018年に発生した「渋谷ハロウィン事件」では、約4万人もの群衆の中から顔認証システムを使い、防犯カメラ映像を照合して、軽トラックを横転させた容疑者を特定している。さらに闇バイトが関係した2022~2023年の「ルフィ広域強盗事件」では、匿名性の高いメッセージアプリのデータ解析や、壊れた携帯電話のデータ復元など、高度なデジタルフォレンジック技術で犯行グループの主犯格逮捕に大きく貢献した。 これらの事例は、いずれもデジタルデータや映像解析が事件解決の決定打となっており、現代の犯罪捜査においてデジタルデータ固有の痕跡「デジタルフットプリント(足跡)」が従来の物理的な証拠と同等、またはそれ以上に重要になったことを示している。デジタル社会化が進むにつれ、SSBCの存在感は今後より大きくなっていくだろう。 ◼️気になる「科捜研」や「特命捜査対策室」との関係は? 『大追跡』を見て、「科捜研とどう違うのか?」と思われた方も多いのではないだろうか。同じくテレビ朝日で1999年から放送されている人気ドラマシリーズ『科捜研の女』で知られる「科学捜査研究所」(以下、科捜研)は、警視庁や各都道府県警察本部に設置されている研究および鑑定を行う組織である。血液や毛髪からDNA型を鑑定したり、火薬や油類を鑑定したり、覚せい剤や大麻等の違法薬物や毒物の鑑定をしたり、銃器や弾丸の鑑定をしたりするのが主な業務である。 科捜研とSSBCの違いは、科捜研が主に現場から採取された証拠物を研究所に持ち帰り、詳細な科学鑑定を行う鑑定機関としての性格が強いのに対し、SSBCは犯罪の広域化、デジタル化、電子化に対応するため、防犯カメラ映像や電子機器データなど、主に情報をリアルタイムに近い形で収集・分析し、捜査員を支援する情報分析、捜査支援をする点にある。『科捜研の女』で榊マリコ(沢口靖子)が白衣を着用し、『大追跡』でSSBCの起動分析を担当する伊垣修二(大森南朋)を筆頭に「SSBC強行犯係」が町中に溶け込める服装をしていることからも両者の違いが見て取れる。いつの日か、作品の枠組みを超えて、榊マリコと伊垣修二が連携することはあるのだろうか? SSBCの名波凛太郎(相葉雅紀)が科捜研に専門鑑定を依頼するケースが発生するのか、期待してしまうところだ。 もう一つ、おなじみの「特命捜査対策室」との違いが気になる方もいると思う。興味深いことに、警視庁が特命捜査対策室を設置したのもSSBCと同じ2009年。しかし、その役割は大きく異なる。特命捜査対策室は、殺人事件など重大な未解決事件(コールドケース)を専門に扱う特別捜査班で、近年進歩したDNA鑑定などの科学捜査技術を活用して、迷宮入りしそうな事件を再検証、再評価することに特化している。特命捜査対策室はフジテレビのドラマシリーズ『絶対零度~未解決事件特命捜査~』など、数多くドラマ化や小説化がされ、高い人気を博している。特命捜査対策室が発足する前にもテレビ朝日のドラマ『時効警察』(2006年〜)のように未解決事件を扱う作品があり、未解決事件への関心の高さがうかがえる。SSBCは新たな犯罪に向き合うので性格が異なることが分かるだろう。