【07月31日 KOREA WAVE】生きていくなかで、物事の成り行きは本当に分からないと実感する。特に人の運命は予測がつかない。現在収監中の韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)前大統領も、そう感じているかもしれない。 数年前、彼自身も今の自分の姿をまったく想像できなかっただろう。 2017年5月19日、ムン・ジェイン(文在寅)政権下の青瓦台・春秋館のブリーフィングルームでは「ソウル中央地検長、ユン・ソンニョル」との人事発表があるや、記者たちから驚きの声が上がった。報道陣が人事発表に反応するのは異例であり、それだけ“抜擢”という印象が強かった。 ユン・ソンニョル氏は当時、国家情報院への家宅捜索や関係者の逮捕などで政権と正面衝突して職務停止や懲戒処分を受け、パク・クネ(朴槿恵)政権下では地方高検を転々としていた。その彼が中枢に復帰する姿は、まさに“華麗なるカムバック”だった。 以降、前政権に対する「積弊清算捜査」を指揮し、順調に出世。2年後にはムン・ジェイン政権の検察総長に就任した。ユン・ソンニョル氏の人生における“絶頂期”であったが、同時に“悲劇の種”でもあった。 ある検察総長経験者の弁護士は次のように指摘する。 「ソウル中央地検長までならともかく検察総長にまで据えたのは、ムン・ジェイン政権がユン・ソンニョルという人間、そして検察を全く理解していなかった証拠だ」 本来、大統領の周囲には層の厚い人事システムが存在し、失敗のない完璧な人事が進められているように見える。 しかし、現実には大統領も人選を誤る。 ムン・ジェイン氏自身もその誤りを認めている。今年初めの韓国紙ハンギョレのインタビューでこう述べている。 「当時、私とチョ・グク(曺国)首席は、検察改革に力が入り過ぎていた。だから、多少不安要素があってもユン・ソンニョル氏を選んでしまった。それがその後、非常に多くの問題を引き起こした。その瞬間を今も後悔している」 だが、大統領の「後悔」は単なる感情にとどまらなかった。政権は交代し、国家の混乱を招き、国民は「非常戒厳令」という未曾有の苦しみを味わう結果となった。 それだけに、大統領が持つ人事権の重みは極めて大きい。 ムン・ジェイン氏の失敗を、イ・ジェミョン(李在明)政権は深く心に刻むべきだ。国民の声に耳を傾け、謙虚な姿勢が求められる。 世の中のことは、本当にどう転ぶか分からないのだから。【news1 ホン・ギサム全国取材本部副局長】 (c)KOREA WAVE/AFPBB News