「大川原化工機」(横浜市)をめぐる冤罪(えんざい)事件について、最高検は7日、捜査や起訴、保釈手続きを検証した結果を公表した。 報告書は、補充捜査が不十分だったとしたうえで、逮捕された元顧問が胃がんが見つかった後も保釈されなかったことについて「保釈請求にあえて反対意見を述べない柔軟な対応をとることが相当だった」とした。 ■7項目の問題点と反省点 今回の検証は、警視庁からの事件相談から起訴検事の補充捜査、公判担当検事による起訴判断や保釈請求への対応まで計7項目について、問題点や反省点を検討した。 まず、警察からの事件相談に際しては「一定の補充捜査の指摘はしたが、消極証拠の確認や事案の実態の正確な把握が不十分だった」とした。 ■省令解釈「検事が確認を」 問題となった省令解釈については、「重要な捜査事項だったことから、検察官が自ら経産省に確認するなどの捜査を行うことがより適切であった」とした。 同社の従業員らは検察の取り調べで、機器には温度が上がらない箇所があるとして、輸出規制の要件に該当しないと主張していた。 これについて報告書は、供述の信用性は乏しいと起訴検事が判断したことが問題だと認定。報告を受けた決裁官の東京地検公安部副部長も「慎重な検討を指示する必要があった」と言及した。 ■保釈請求には「一貫して反対意見を述べた」 公判担当検事の保釈請求への対応については、「罪証隠滅のおそれがあると判断して一貫して反対意見を述べた」点を問題に挙げた。 そのうえで、元顧問が胃がんの診断を受けたことが明らかになって以降の保釈請求について、「反対の意見を述べないなど柔軟な対応をとることが相当であった」と指摘した。 報告書は、こうした問題点や反省点への対策として、勾留中の被告人などの病状に関し検察庁や拘置所の連絡体制を強化することなどを挙げた。 ■裁判所は検証せず 一方、保釈請求について、検察官による反対意見を受けて許可しなかったのは裁判所だ。ただ、その裁判所当局に、今回の事件をめぐり保釈判断の是非を検証する動きはない。 起訴内容を否認すると保釈が認められず、身体拘束が長引く状況は「人質司法」と批判される。身体の自由を人質にとられて罪を認めるよう迫られる、との意味だ。 保釈されずに亡くなった元顧問の遺族は「人質司法に加担した裁判所も検証をするべきだ」と求めてきた。 ■「『裁判官の独立』を脅かす」 裁判所はこれまで、個別の事件で裁判官が下した判断について公式に検証したことはない。裁判官の判断の是非を検証すれば、憲法が定める「裁判官の独立」を脅かしかねない、との理由だ。 ただ、裁判官の間にも保釈の実務をめぐる課題を指摘する声はあり、運用面での模索が続く。 東京地裁では2024年から、争点が複雑な一部の事件を対象に、保釈の判断をする裁判官を原則として固定する運用を始めた。従来の当番制を改めることで、事件を理解した裁判官が効率的に適正な判断を下せるようにする、との狙いだ。 あるベテラン裁判官は「裁判官同士の議論を重ねて、保釈判断の質を上げていくことが裁判官の責務だ」と話した。