「また夫と一緒に暮らせるのでしょうか……」 8月12日にあっせん収賄などの容疑で逮捕された、韓国・前大統領・尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏の夫人・金建希(キム・ゴンヒ)氏(52)は、弁護団に対してこう漏らしているという。 韓国社会だけでなく日本でも注目される人物が金氏だ。彼女にかけられている容疑は実に16件にのぼる(夫の尹氏は12件)。株価操作、当時の政権与党候補選びへの不正介入、金品をもらった宗教団体への便宜……。なかでも問題視されるのが、親族を政府高官にする見返りなどのため、支援者から受け取ったとされる高級ブランド品の数々だ。ヴァン クリーフ&アーペルのネックレスやティファニーのブローチ、シャネルのバッグなど総額は2000万円を超えるとみられる。 ◆「夫を大統領にしたのは私だ」 韓国社会に詳しい『コリア・レポート』編集長の辺真一氏が解説する。 「尹氏が大統領に就任する前、金氏は『内助の功に徹する』と話し夫と2人の行動すら控えていました。ところが尹氏が大統領になった途端、外遊先に2ショットで現れたり要人との会合に進んで参加したりと前面に出るようになったんです。一躍、国民の注目の的となり彼女のファンクラブ『ゴンヒ愛(ゴンヒ愛してる)』には8万人ほどが加入しました。 金氏の態度が変わった背景には、尹氏との『格差』があります。’12年3月に結婚した当時、一介の検察官だった尹氏の収入は200万円ほどしかなかったのに対しイベント会社を手がけ大学の教壇にも立っていた金氏の資産は億単位だったそうです。自分のカネで尹氏を食べさせていた金氏には、『夫を大統領にしたのは私だ』という自負があったのでしょう。そうした『驕り』が金氏の態度を大きくさせ、ブランド品を受け取り政治に首を突っ込むようになったのかもしれません」 しかし金氏は、夫の失脚やブランド品を渡した人物の供述などにより、一気に権力の座から転び落ちることになった。検察の取り調べに対し、ほとんどの供述を拒否。4398番の収容番号がつけられ、拘置所で下着やタオルを渡されエアコンのない広さ4畳ほどの部屋で生活しているという。 ◆弁護団への言葉の真意 今後は悲惨な末路が待っていそうだ。辺氏が続ける。 「多数の高級ブランド品を受け取ったことで起訴されれば、あっせん収賄でなく、より重い賄賂罪が適用されると思われます。しかも1件だけでなく容疑は16件です。すべての罪が加算されれば懲役5年や10年では済まない。無期懲役の可能性も十分あるでしょう。弁護団に『また夫と一緒に暮らせるのでしょうか』と漏らしたのは(冒頭で紹介)、自分の悲惨な将来を見通しての言葉かもしれません。 韓国の大統領が無残な末路をたどった例は多々あります。全斗煥(チョン・ドゥファン)氏は’97年4月に不正備蓄などの罪で無期懲役の判決を受け、廬武鉉(ノ・ムヒョン)氏は’09年5月に自ら命を絶ちました。しかし金氏のように、ファーストレディが16もの容疑で重罪に処されるというケースは聞いたことがない。ましてや夫婦そろっての逮捕は韓国史上初めてです。それだけ金氏の業の深さがうかがえます」 国内外が今後の動きを注視する、韓国社会を揺るがす金氏の一連の事件。暗転した自身の人生にショックを受けたのか、金氏は収容されてから食事の大半を拒んでいるという。