移民の制限強めるドイツが「人道ビザ」発給を一時停止 露反体制派にも影響か

ドイツの新連立政権は、母国で政治的迫害を受けている人々に対する「人道ビザ(査証)」の発給を一時停止したと報じられている。これは特に、ロシア政府によって標的とされているジャーナリストや活動家を含む、ウクライナ侵攻に批判的なロシア国民に影響を与えているようだ。ドイツは現在、あらゆる種類の移民の取り締まりを強化しており、すでに承認されていた人道ビザの発給も停止したと伝えられている。 ドイツ公共放送ドイチェベレによると、同国の人道支援計画に基づき、ロシアの反体制派数百人にビザの承認が下りていたが、内務省が実際の発給を阻止しているという。対象者にはジャーナリストや活動家が含まれており、中には学齢期の娘がウクライナ侵攻を批判する内容の絵を描いたことでロシア国内で逮捕された男性もいた。 ドイチェベレの取材に対し、ドイツ内務省の広報担当官は、新連立政権が人道ビザなどによる移民の受け入れを制限することで合意したため、「緊急事態」のような一部の例外を除き、これらのビザの発給は停止されると説明した。 ウクライナ侵攻に対するドイツの立場を考えると、今回の措置はいささか驚きだ。特に、人道ビザを保有または申請している反体制派のロシア人の数が比較的少ないことや、一般的に政府がこのようなビザを通じて得る宣伝効果を考えるとなおさらだ。各国政府は通常、ビザや亡命政策を政治目的に利用し、難民や反体制派の入国を認めることによって、こうした人たちの国外流出を敵対国の失策の証拠としてきたからだ。代表的な例としては、東西冷戦期に米国がキューバ難民を受け入れたマリエル難民事件や、北朝鮮からの脱出に成功した人々に対する措置などが挙げられる。 だが、現代のドイツではあらゆる種類の移民が大きな政治問題となっており、他の課題より優先されているようだ。5月に就任した中道右派「キリスト教民主同盟(CDU)」所属のフリードリヒ・メルツ首相は、移民問題に関しては長らく右派の立場を取ってきた。CDUの後を追っているのは、近年の州議会選挙や世論調査で大きな躍進を遂げている極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。同党は強硬に移民排斥を訴えている。 ドイツはすでに合法か非合法かを問わず、あらゆる種類の移民を厳しく取り締まるための措置を講じている。これらの措置には、近隣諸国との国境検問の実施や難民の「押し戻し」政策、移民の家族の呼び寄せや市民権取得資格に関する規則の厳格化などが含まれる。 こうした中、国境管理のさらなる厳格化を求める声により、メルツ首相率いる保守的なCDUと中道左派の「社会民主党(SPD)」が連立を組む新政権は、可能な限りの機会をとらえて移民の数を削減しようとしている。だが、ロシアの反体制派のビザ問題を取り上げている各種報道機関によると、現在人道ビザの発給を待っている数百人の人々に対しては、ある程度の救済措置が適用される可能性もあるとみられている。ドイチェベレが伝えたところによると、ロシアの反体制派を支援する団体で活動する弁護士は、ドイツ内務省のコメントのあいまいさが希望の余地を残すかもしれないと楽観的な見方を示している。 より広範な視点から見れば、今回の件は西欧諸国が移民数を削減するためにどの程度の措置を講じる用意があるかを示すものでもある。

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