暑い夜が続き寝苦しい日が続く――というのは、酷暑が定着し、エアコンが普及した結果、皮肉なことに過去の体験となってしまった。自分も最近は、暑いと感じるとすぐにエアコンのスイッチを付ける。24時間運転しっぱなしということも珍しくはない。電気代はかかるが、熱中症で体を壊したら元も子もない。エアコンで熱中症を遠ざけることができるなら、電気代は安いものと考えなくてはいけない。 そんなエアコンを付けっぱなしで就寝した過日の夜明け、夢を見た。 ●エイリアン出現 喉が痛くてたまらない。医者に行くと、診察をした医師は「自分でご覧になってください」と、おもむろに鏡を取り出した。思い切り口を開けて、鏡に喉の奥を映し出す。真っ赤に腫れているが、何かがおかしい。口蓋垂(のどちんこ)が、なんと映画「エイリアン」(1979年、リドリー・スコット監督)に出てくる、蛇のようなエイリアンの幼生の頭になっていて、ギイイイイと泣きながらうごめいている。画家のH・R・ギーガーがデザインした、おぞましいという感情を形にしたような、しかし魅力的でもある怪物――「エイリアン」には成長過程のエイリアンが2種類登場するが、そのうちのチェストバスターという奴だ。映画では、ノストロモ号乗員に寄生し、胸を食い破って飛び出して来た。 医師が説明する。「あなたの扁桃(へんとう)を食って寄生しています。引き剥がさないと大変なことになります。すぐに大きく成長して最後はあなたの顔面を食い破って飛び出してきます」と。そして医師は、ヤットコのような道具を取り出した。「えっ、えっ、せめて麻酔かけて手術するとか」と慌てる私に、「いや、手術で切除しても少しでも奴の組織が残るとそこから再生してしまいます。これで一気に引き抜くしかありません」と言う。ぼうぜん自失の状態で、目が覚めた。 一体なんの夢だ。今、流行している新型コロナ感染症のニンバス株は、「カミソリで切るほどの喉の痛み」が特徴だそうだが、今のところ私は罹患(りかん)していない。 確かに子どもの頃は扁桃が弱くて、すぐに扁桃炎で喉を腫らしていたが、こんな夢は初めてだ。あの頃は扁桃は無用の器官と思われていて、医師に「こんなに腫れているなら、いっそ手術で取ってしまったほうがいいかもしれませんね」などと言われたものだが。 その後の医学の進歩で、扁桃には口や鼻から体内に侵入する細菌・ウイルスに対して免疫を発動する機能があることが判明した。すぐに炎症を起こすからとほいほい切除してよい組織ではなかったわけだ。 寝ているでも起きているでもないまどろみの状態で、夢を反すうする。免疫機能を持つ扁桃を食って顔面を食い破って飛び出してくるエイリアンって一体何だ? すぐに分かった。喉チンコのエイリアンは自分にとって参政党の象徴だ。なぜなら、7月の参議院議員選挙からこのかた、私は参政党について調べ、考え続けていたから。 とはいえ、参政党がなぜ、扁桃を食って喉の奥から顔面破って飛び出してくるエイリアンかは説明する必要があるだろう。なにしろ、随分とたくさんの人が参政党に投票した。 それをギーガーがデザインしたエイリアンに例えるには、相応の理由がある。 ●参政党の危険さは「政治」をしていないこと 去る7月21日、私は絶望していた。第27回参議院議員選挙の結果が出そろい、参政党の大躍進が決まったからだった。 私にすれば参政党の危険性はあまりに明らかだったが、世間にはそうは思わない人も多いようだった。 いや、「ようだった」ではなく、はっきり「多かった」と言わねばならない。各種メディアの事前予測は、既存政党の退潮と参政党の大幅議席獲得を示していた。事前予測は統計学的な手法で行われており、大きく外れることはないことを知っていたが、それでも何かの間違いであってほしいと願っていたし、この連載でも参政党の問題点を指摘する記事も書いた(「ゆるふわ国家意識の終着点・決戦兵器『伏龍』、「『日本人ファースト』が破壊する日本人が住みやすい環境」 )。 私の文章など大勢からすれば蟷螂の斧(とうろうのおの)であることは自覚している。それでも参政党が、大量得票で、一躍14人の参院議員を擁するに至ったことに大きく失望し、改めて強い危機感を抱いた。 この文章を読んでいる方の中には、参政党に投票した方も、参政党に好意的な方もおられるだろう。なぜ松浦が、かくも参政党を危険視するのか分からない方も多いかもしれない。 が、間違いなく参政党は大変に危険だ。なぜなら、彼らは「政党」のふりをしてはいるが、「政治」をしていないからだ。