【社説】秘書給与詐取 なぜ同じ過ちを繰り返す

またも「政治とカネ」の不祥事が発覚した。過去の事件が教訓になっていない。あきれるほかない。 参院議員(比例)を1日に辞職した石井章氏が、勤務実態のない公設秘書の給与を国からだまし取った疑いが持たれている。東京地検特捜部は事務所を家宅捜索した。 公設秘書の給与は国費で賄われている。容疑が事実なら国民に対する重大な裏切り行為である。 容疑について口をつぐんだまま辞職することは許されない。国民の負託を受けた議員だったならば、公の場で事実関係を説明すべきだ。 石井氏は勤務させる意思がないのに、自身が理事長を務める社会福祉法人の関係者を公設秘書として国に届け出ていた疑いがある。別の公設秘書にも勤務実態がなかった可能性があるという。 国会議員は政策秘書を含む3人の公設秘書を雇用することができ、月額30万~60万円程度の給料が支払われる。特捜部は約800万円を詐取したとみているようだ。 所属した日本維新の会は石井氏を除名処分にした。維新は、政治家が自らの既得権に切り込む「身を切る改革」を前面に掲げる政党だ。石井氏の問題点を明らかにし、再発防止策を示す責務がある。 国会議員による秘書給与の詐取事件は後を絶たない。昨年は自民党参院議員だった広瀬めぐみ氏が約350万円を詐取した事件があり、有罪が確定した。石井氏が知らないはずはない。 不正を防ぐ法律を作る国会議員が、何度も事件を起こすようでは話にならない。 2004年の国会議員秘書給与法改正も事件がきっかけだ。給与は公設秘書の口座に直接振り込むことになり、議員が秘書に寄付を要求することは禁止されている。 それでも現行法は抜け穴が多いといわれ、秘書給与を事務所の運営経費に充てる実例がささやかれる。違法行為がなくならないのであれば、公設秘書の勤務実態や給与の振り込みを点検する仕組みを検討しなくてはならない。 7月の参院選で比例代表に立候補した自民党の阿部恭久氏を巡る大規模な選挙違反も明るみに出た。パチンコ店運営会社の社長らが、阿部氏に投票すれば3千円または4千円の報酬を支払うと約束したとして、公選法違反(買収約束)の容疑で逮捕された。 阿部氏はパチンコ店の全国組織の理事長を務める。社長らは従業員ら約250人に投票を求めたとみられる。落選した阿部氏は関与を否定している。 票をカネで買うような行為が、組織ぐるみで横行していることにがくぜんとする。党の責任は免れない。 自民派閥の裏金事件は今も解明されず、政治資金改革も進んでいない。さらにこのような事件が続くようでは、政治はますます国民から見放される。

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