「適法と認識していた」「法令に触れる行動を取った覚えはない」。1日付でサントリーホールディングス(HD)会長を辞任した新浪剛史氏(66)は3日、経済同友会の代表幹事として臨んだ記者会見で、一貫して潔白を主張した。 新浪氏は8月、日本では規制されている大麻成分を含む製品を密輸入した疑いで福岡県警から自宅の捜索を受けた。しかし大麻や違法薬物は発見されず、新浪氏の尿からも薬物使用が疑われる成分は検出されなかった。 サントリーHDは新浪氏の報告を受け、社内の議論を経て、1日に新浪氏が提出した辞任届を受理した。新浪氏は辞任の理由について「大好きなサントリーに迷惑をかけてはいけないと判断した」としたが、違法なサプリメントの所持・使用は否定した。 サプリメントは「健康を守っていただいている友人から強く薦められた」(新浪氏)。出張による時差ぼけや睡眠不足への対策として、米ニューヨークの知人女性から薦められたという。8月、福岡県にいるこの女性の弟が輸入し、新浪氏宛てに送ろうとして逮捕されたことを女性から知らされたと明かしたが、「輸入するよう指示したものではない」と自身の関与は否定した。 これに先立ち4月の米国出張時、現地で購入したサプリメントを自分で持ち帰ろうとした際は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイやインドを経由して帰国する予定があった新浪氏に代わり、この知人女性が米国から日本に手荷物として持ち込んだという。その後に新浪氏の自宅へ郵送されたとみられるが、送り主に心当たりのない家族が廃棄したとの見方を示した。 会見で、違法行為はしていなくとも「警察から何かしら事情聴取などされた会長、社長はみんな辞めなきゃいけないんでしょうか。そういう事例は作ってはいけない」と訴える場面もあったが、サントリーHD会長の辞任については「結果的に世間を騒がせるのは大変問題だと感じており、納得のいくものだ」とした。 新浪氏はサントリーHD社長、会長として同社を世界的企業に育てることに尽力してきた。自身の成果について「サントリーの文化が世界に根付く基礎を作った」と誇った一方、「もっともっとやりたいことがあった」と語った。今後の海外事業については「鳥井(信宏)社長が必死になってやってくれると期待している」と述べた。 一方、同友会の代表幹事の職務については、「一度は辞めようと思ったが、同友会の仕組みに委ねるのが重要だ」として進退の判断を同友会の理事らによる会員倫理審査会の議論に委ねた。だが、経済3団体の一角である同友会トップの代表幹事は、現職の企業経営者が務めるのが通例だ。サントリーHDの会長を辞任した新浪氏が続投すれば、批判も出かねない。 この日は新浪氏が自粛する間、代行を務める岩井睦雄・日本たばこ産業会長も会見に同席した。新浪氏の処遇について月内をめどに早急に議論を進めていく方針だが、新浪氏が潔白を主張していることなどから「今すぐ辞めるべきだという話は出ていない」と話した。 今回の一連の事案での新浪氏の判断やサントリーHD、同友会の判断について企業統治に詳しい牛島信弁護士は「警察の捜査対象となったことで大企業のトップとして社会的制裁を受けることはやむを得ない。サントリーHDは捜査結果を待たずに新浪氏に辞職を勧告したが、会社を守り世の中への責任を果たすための良い判断だ。経済同友会は組織の重要性や影響力を鑑み、できるだけ早くフェアな手続きで結論を出してほしい」と指摘した。【加藤美穂子、成澤隼人】