イスラエル、ガザ市への攻撃激化 避難者への「恐ろしい」影響を国連が警告

イスラエル軍が、パレスチナ・ガザ地区北部ガザ市の制圧に向けて準備を進めている。ガザ市の住民は、イスラエル軍が攻撃を激化させていると訴えている。 複数の病院によると、ガザ市で3日、イスラエル軍の空爆があり、女性と子どもを含むパレスチナ人30人以上が殺害された。攻撃は市北部と西部に集中しているという。 イスラエル軍の参謀総長は、イスラム組織ハマスを「打倒」し、人質が解放されるまで「ハマスの重心を攻撃し続ける」と誓っている。 国連や援助団体は、イスラエルの作戦はすでに、ガザ市で避難生活を送っている人々に「恐ろしい人道的影響」をもたらしているとしている。先月には国連が、約100万人が暮らすガザ市で飢饉(ききん)が起きていると宣言した。 こうした中、イスラエル国内では、人質の解放と引き換えに、即時に停戦合議を結ぶよう政府に求める抗議デモが行われた。ガザに残る48人のイスラエル人や外国人の人質のうち、20人は生存しているとみられる。 ■直近の攻撃で少なくとも46人殺害 パレスチナの病院当局によると、ガザ全域での空爆と銃撃で、3日未明以降に少なくとも46人が殺害されたという。 ガザ市内のシファ病院は、21人の遺体が運ばれてきたと発表。そのうち5人は、市西部の漁港地区のアパートがイスラエルの戦闘機に攻撃された際に殺害されたとした。 ロイター通信によると、空爆では、イブラヒム・アル・マブフーフくん(3)の両親と姉妹2人が殺害されたと、アブフーフくんの祖母は話した。一家は、近くのジャバリアから避難していて、空爆でアブフーフくんは家の柱の下敷きになっていたという。祖母は「孫だけが神に救われた。(中略)孫の叫び声で私たちは目を覚ました」と話した。 救助隊らによると、イスラエルのドローンは夜間に、ガザ市北部シェイク・ラドワン地区周辺の診療所付近に焼夷(しょうい)弾を投下した。同地域ではイスラエル部隊と戦車が進軍していたと報じられている。 ソーシャルメディアに投稿された複数の動画には、シェイク・ラドワン地区の診療所の敷地内で、救急車の隣で火災が発生している様子や、近くの通りで別の救急車が燃えている様子が映っていた。 ロイター通信は複数の住民の話として、イスラエル軍が避難民が身を寄せていたシェイク・ラドワン地区の三つの学校に小型弾を投下し、テントを炎上させたほか、同地区東部では、爆薬を積んだ装甲車を爆破して複数の住宅を破壊したと報じた。 「シェイク・ラドワン地区は焼け野原になっている。占領軍(イスラエル)は家を破壊し、テントを燃やし、ドローンで住民に退去を命じる音声を流していた」と、5人の子を持つザケヤ・サミ氏(60)は話した。 イスラエル軍は、こうした報告について調査中だとした。 3日にガザを訪れたイスラエル軍参謀総長のエヤル・ザミール中将は部隊に対し、「戦争の目的を達成するために、『ギデオンの戦車』作戦の第2段階に突入した」と語った。 「人質の帰還は道義的かつ国家的使命だ。ハマスを打倒するまで、我々はハマスの重心を攻撃し続ける」 ハマスは、イスラエル軍によるガザ市での「体系的な破壊作戦」は「前例のない国際法違反」だと非難した。 ■「恐ろしい人道的影響」を警告 国連機関や、そのパートナーの「ガザ現場管理クラスター」の人道活動家らは、イスラエルが8月7日に発表したガザ市での軍事作戦強化について、「避難場所にいる人々に恐ろしい人道的影響をもたらしている。そうした人たちの多くはすでに、(ジャバリアを含む)ガザ北部から避難している」と指摘した。 また、ガザの多くの世帯は、物価高騰や物流上の課題、安全な場所の不足により移動できずにいると警告。数十万人をガザ南部へ強制的に移動させることは、国際法上の強制移動に該当する可能性があるとした。 ガザ現場管理クラスターによると、8月14日以降、新たに8万2000人以上が避難を余儀なくされている。大半は人口が密集する沿岸部へ向かい、イスラエル軍の指示通りガザ南部へ移動したのは避難者の3分の1にとどまっているという。 イスラエル軍は、医療や水、食料の提供を受けられるとして、南部アル・マワシへ移動するよう促している。しかし国連は、アル・マワシの避難民キャンプのテントは過密状態で、安全ではないと指摘している。南部の病院にもすでに収容能力を大幅に超える人がいるという。 2日には、アル・マワシの避難民キャンプで水を求めて並んでいた子ども5人が、イスラエルのドローン攻撃で殺害されたと、複数の目撃者が証言している。 イスラエル軍は3日に声明で、一帯への攻撃は「ハマスの主要テロリスト」を標的としたものだとしたうえで、「この攻撃による死傷者に関する主張を認識」しており、事態を「評価中」だと付け加えた。 ■ガザ全域の制圧目指すネタニヤフ氏、人質家族は反発 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、7月にハマスとの停戦および人質解放に向けた交渉が決裂した後、ガザ全域の制圧を目指すと発表した。 人質の家族らは、イスラエル軍の攻撃はガザ市で拘束されている人質を危険にさらすことになると懸念しており、人質の解放を保証する合意に向けた交渉を行うよう、ネタニヤフ首相に求めている。 周辺国の仲介役は先に、60日間の停戦を実施し、その間に、生存している人質10人と死亡した人質18人の遺体をイスラエルに引き渡す案を提示した。しかしネタニヤフ氏は、人質全員の解放とハマスの武装解除を含む包括的な合意でなければ受け入れないと主張している。 ハマスと直ちに合意を結ぶよう求めるイスラエル市民は3日、エルサレムでタイヤやゴミ箱を燃やし、駐車中の車両を破壊するなどして抗議した。 エルサレムにあるイスラエル国立図書館では、屋上に登り、「(政府は人を)見捨て、殺害している」と書かれた横断幕を掲げたとして、13人が逮捕された。 ネタニヤフ氏の公邸近くでは、一部の人質の家族が集まり、群衆に訴えかけるなどした。 この中には、ガザで拘束されている人質のロム・ブラスラフスキー氏の父オフィル・ブラスラフスキー氏の姿もあった。ロム・ブラスラフスキー氏は、ガザの武装組織「パレスチナ・イスラム聖戦(PIJ)」が7月31日に公開した映像で、やせ細り、泣いている様子が映っていた。 「息子のロムは死にかけている。飢えて、拷問されている。息子の目を見れば、生きる意志を失っていることがわかる。父親として、何もできない状況ほどつらいものはない」と、父親はイスラエル紙ハアレツに語った。 「現地の恐ろしい状況を映した息子の映像が公開されてから1か月がたつのに、政府は息子をそのままにしているなんて、一体どういうことなんだ。それなのに、首相はガザの領土をさらに制圧しようとしている。私には理解できない」 1月に一時停戦と人質解放の合意を仲介したアメリカのドナルド・トランプ大統領は、次のようにソーシャルメディアに投稿した。 「人質を20人全員(2人でも5人でも7人でもない! )今すぐ返すよう、ハマスに伝えろ。そうすれば事態は急速に変化すると。そうすれば終わる!」 ハマスは2023年10月7日にイスラエルを攻撃し、約1200人を殺害、251人を人質として拘束した。これを受けたイスラエルの攻撃により、これまでに6万3746人以上のパレスチナ人が殺害されていると、ガザ保健省は発表している。 同省はまた、過去24時間で6人が栄養不良によって死亡したと発表。これにより、現在の戦争が始まってからの栄養不良によるガザ地区での死者は367人に上ったとしている。 (英語記事 Israel intensifies Gaza City attacks as UN warns of 'horrific' consequences for displaced families)

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