購入したサプリメントをめぐり警察の捜査を受けたとして、サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史氏が会長を辞任した。 経済ジャーナリストの内田裕子氏は「最初は、何かの策略にはめられたのではないか(と感じた)。一体何があったのだろうと、まず驚いた」と語る。 新浪氏は会見で「私は法を犯しておらず潔白である」と主張したが、サントリーホールディングス(HD)の会長を辞任。また、経済同友会代表幹事の活動自粛も発表した。 CBD(カンナビジオール)は大麻草由来だが有害とされておらず、リラックス効果をうたうサプリメントなどの市場が欧米で急拡大しているという。一方で、厚生労働省はCBDの抽出過程で、幻覚などを引き起こすとされる成分「THC」が残ることがあり、製品の中には基準値を超える違法なものもあるとして、注意を呼びかけている。 購入の経緯について、新浪氏は「適法な商品と認識し、米国でCBDサプリを購入。これは市販されているもので、日本においても同ブランドの同様の商品が売られていた」と説明する。そして「サプリは疑義のあるものではない」と主張したが、サントリーは捜査結果を待たず、役職に堪えないと判断。協議の上、解任ではなく辞任となった。サントリーHDの鳥井信宏社長は「二人三脚でやろうと言ったのに大変残念だ」とコメントした。 新浪氏は三菱商事時代にハーバード大ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得し、その手腕を買われて43歳でローソンの社長に就任すると、ナチュラルローソンの展開や海外進出を進めた。そして業績を拡大し、株価を3倍にする実績を残した。 その功績を買われ2014年に、創業家以外で初のサントリーHD社長になった。内田氏は「三顧の礼ではないが、『ぜひサントリーに来て欲しい』と招聘(しょうへい)された。新浪氏がきっとサントリーの経営に吹き込むのだろうという予感もあった」と振り返る。 社長就任後は、買収したアメリカの酒造メーカー「ビーム社」との経営統合を推し進め、国際化に貢献。また「やってみなはれ」の社訓通り、ペットボトルコーヒーという新たなジャンルを開拓した。 「日本企業は買収した海外の企業になめられる。大型買収はいままでほとんど失敗してきた経緯がある。しっかり力で説き伏せていったところが、パワーネゴシエーターで、タフネゴシエーターだ」(内田氏) 経済同友会代表幹事となり、「物言う経営者」として歯に衣着せぬ発言が話題になったこともある。2023年には「ジャニーズ事務所のタレント起用は、チャイルド・アビューズ(子どもに対する性加害)を企業が認めることであり、国際的には非常に非難の的になる」と発言し、話題となった。 また会社員は自助努力を続け、過度に会社に頼るべきではないなどの理由で「45歳定年制」を提唱。最低賃金1500円への引き上げについても、「払えない企業はダメ。1500円にしないのは、ある意味ダメな企業を補助することになる」と語っていた。 そんなカリスマ経営者が家宅捜索を受けたきっかけは、別の薬物事件で逮捕された男の供述だった。捜査関係者によると、逮捕された男は「新浪氏に送るよう送り主から依頼された。過去にも新浪氏とのやりとりがあった」と話しているという。 しかし福岡県警が新浪氏の自宅を捜索したが、サプリは出てこず、尿検査も陰性だったという。新浪氏は自分の行動が不注意だったとしつつ、身の潔白を強く主張した。 ではなぜ、サプリも販売している企業のトップが、疑いを持たれるサプリを購入したのか。新浪氏は「出張が多く、時差ボケがすごく多い。私の健康を守っている知人から強く薦められたことが第一だ」と明かしている。 内田氏は、経営者が蓄積するストレス問題にも目を向けるべきだと指摘する。「常に企業のトップは、強気で堂々としていなければならない。『どうしよう』とウロウロしていたら、社員みんなが心配に、不安になるわけで、なかなか悩みを吐露できないところはあると思う」。 また、「経営者の悩みでよく聞くのは『眠れない』こと。睡眠障害を持っている経営者はたくさんいる。今回、新浪氏は『適法だった』と言っているが、サプリメントがストレス解消になり、リラクゼーション効果があり、それを必要としていたのだろう」と推測する。 新浪氏以前から、多くのカリスマ経営者が「不都合な事実」を突きつけられ、辞任に追い込まれてきた。日産を倒産危機から救ったカルロス・ゴーン被告は、自らの役員報酬を少なく偽って開示。また会社の資金を不正に流用した容疑でも逮捕され、会長と社長職を解任された。 アップル日本法人の社長、日本マクドナルドCEOなどを歴任し、「プロ経営者」と称された社長は、同族経営のベネッセの社長に就任直後、個人情報漏えい事件が発覚した。自身の就任前から行われていたが、業績不振も重なり、責任を取る形で辞任となった。 創業家一族のスキャンダルとしては、カジノで106億円を溶かした大王製紙の元会長の解任・逮捕劇も、問題の発覚は対立する内部からのリークだったとされる。 サントリーでは“外様”だった新浪氏だが、排除する動きはあったのだろうか。内田氏は「実績も作ってきたため、長期政権になっていた。しかし、佐治家と鳥井家のたすき掛けの経営を交代してやってきた流れの中で、社内では辞めてもらうきっかけを探している、待っている勢力もあったのではないか」と想像する。 会見でも「『クーデターにはめられた』という言葉を耳にしたことはあったのか」という質問が飛んだ。これに鳥井社長は「クーデターにはめられるのは、たぶん社長だ。言葉もちょっと違うかなという感じがする」と否定した。 内田氏は「『脇が甘かった』。疑いを持たれるようなことはやらない。ちょっとした判断の誤りで、日本経済を騒がすことが起こり得る。それぐらいコンプライアンスやガバナンスの厳しさが増しているということは、改めて考えなければいけない」と話した。 コンプラ重視の世の中において、「不都合な情報」は下剋上を可能にする武器とも言える。元東京都知事の舛添要一氏は以前、「やろうと思ったら、なんでも都合の悪い情報を見つけて、引きずり下ろす」と指摘していた。 (『ABEMA的ニュースショー』より)