米ディズニーは22日、放送を無期限に中止するとしていた人気の深夜トーク番組「ジミー・キメル・ライブ!」について、23日の放送から再開すると発表した。人気コメディアンで司会者のジミー・キメル氏と「ここ数日、思慮深い会話を重ねてきた」結果、番組の放送再開を決めたという。 米ディズニー傘下のABCテレビは17日、「ジミー・キメル・ライブ!」の放送を無期限で休止すると発表。右派活動家チャーリー・カーク氏の銃撃事件をめぐるキメル氏の発言が理由だと受け止められた。トランプ大統領はABCの発表直後にその決定を歓迎し、さらには自分の批判ばかりするネットワーク局は放送免許を「取り上げられるべきじゃないかと思う」とも発言していた。 ABCによる放送中止決定の前には、連邦通信委員会(FCC)がABCの放送免許取り消しをほのめかしていた。一連の事態を受けて、全米で言論の自由をめぐる議論が起きている。 ABCの親会社ディズニーはこれについて22日、キメル氏の「一部の発言がタイミング的に不適切で、そのため無神経だと感じたため」番組を停止した」のだと説明。その上で同社は、「ここ数日、ジミーと思慮深い話し合いを重ねてきた。そうした会話を経て、火曜日に番組を再開することを決定した」と発表した。 トランプ氏は同日、ホワイトハウスの記者団からキメル氏の復帰について質問されたが、コメントしなかった。 アメリカ最大のABC系列局グループ「シンクレア」は同日、23日から自社系列のABC局では「ジミー・キメル・ライブ!」の放送をニュース番組に差し替えると発表した。「番組の放送再開についてはABCと協議中」だとも述べた。 シンクレア社は以前、キメル氏の発言について「この国にとって極めて重要な時に、不適切かつ極めて無神経」だと批判し、ABCと正式に協議するまで番組の放送停止を解除しないとしていた。 同社はさらに、キメル氏の謝罪を要求するほか、故カーク氏の非営利団体「ターニングポイントUSA」に寄付するよう求めていた。 アメリカ最大のローカルテレビ局所有者「ネクスター・メディア」も17日、キメル氏の番組を「当面は」放送しないと発表。ディズニーが発表した放送再開については、コメントしていない。 ABCの17日の発表を受けて、ハリウッド関係の複数労組やテレビ・映画関係者、アメリカ自由人権協会(ACLU)、野党・民主党関係者などから、番組中止は言論の自由の侵害で、メディアを萎縮(いしゅく)させるものだと強い批判が相次いだ。 キメル氏の同業で深夜トーク番組を司会するジョン・スチュワート氏、ジョン・オリヴァー氏、スティーヴン・コルベア氏らも支援を表明したほか、数百人の著名人やハリウッド関係者がキメル氏を支持する書簡に署名した。ベン・スティラー、ジェニファー・アニストン、メリル・ストリープ、ロバート・デ・ニーロ各氏ら複数の俳優は、キメル氏の番組停止を「我が国の言論の自由にとって暗黒の瞬間」と表現した。 番組中止を批判する人の間では、ディズニー+やHuluなどディズニー傘下の動画配信サービスの解約を呼びかけ、企業業績に打撃を与えようという動きが広がった。 キメル氏は2003年から深夜番組の司会を務め、米アカデミー賞の司会も4回担当した。ABCが放送中止を発表して以降、公にコメントしていない。 ■なぜいったん放送中止に 右派活動家カーク氏が9月10日に銃撃されて死亡した事件では、タイラー・ロビンソン容疑者(22)が11日に逮捕され、殺人罪などで訴追された。 キメル氏は事件当日、インスタグラムで事件を非難し、カーク氏の家族に「愛」を送ると投稿していた。 キメル氏はその後、15日の放送で、「MAGA(アメリカを再び偉大にしよう)の連中は必死になって、チャーリー・カークを殺した子供が、自分たちとは全く違うと見せかけようとしているし、この事件から何としても政治的な得点を稼ごうと、できる限りのことをしている」と発言した。 キメル氏は続けて、カーク氏追悼のため半旗を掲げる動きがアメリカ国内で広がっていることや、トランプ大統領の反応を批判。「これは友人の殺害を悼む大人の態度じゃない。これは金魚をなくして悲しむ4歳児の反応だ」と述べていた。 こうした発言について、連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長は、「これ以上あり得ないほど不快なふるまい」だったと非難し、ABCの親会社ディズニーに対応を呼びかけていた。 トランプ大統領に指名されてFCC委員長に就任しているカー氏は、「(放送局は)FCCから放送免許を与えられている。免許を受けるからには、公共の利益に資する運営が義務付けられている」と保守系ポッドキャスト番組で述べた。また、キメル氏が謝罪することが、「最低限の合理的な対応だ」とも話した。 カー委員長はさらに18日、FOXニュースのインタビューで、キメル氏の番組中止で「一件落着ではない」と発言。「我々は引き続き、放送局が公共の利益にかなう行動をとるよう、その責任を問い続ける。この簡単な解決法が気に入らないなら、放送局は免許を返上することもできる」と述べた。 カー委員長はネクスター社に「正しい判断をした」と感謝し、他の放送局にも同様の対応を求めていた。ネクスターは現在、全米に放送局を持つテグナ社と62億ドル規模の買収交渉の渦中にあり、FCCの承認を求めている。 一連の動きは、J・D・ヴァンス副大統領やホワイトハウスの関係者がカーク氏を批判する人への制裁を求める運動を全国的に推進する中で起きた。 FCCはABCのような主要ネットワークや系列局に対して規制権限を持つが、ケーブル局やポッドキャスト、ストリーミングコンテンツには権限が及ばない。 法律の専門家たちは、FCCが政治的見解を理由に放送免許を剥奪することは、表現の自由を保障する合衆国憲法修正第1条に基づき、法的に認められないはずだと指摘していた。 FCCただ一人の民主党員、アナ・ゴメス氏は22日、「政府によるあからさまな威圧に直面しながら、ディズニーが勇気を見せたことをうれしく思う」と述べた。 ゴメス氏はまた、「この露骨な言論封殺の動き」に対して、政治的立場を超えて抗議した全てのアメリカ国民に感謝。「表現の自由を抑圧する動きと闘う」と誓った。 (英語記事 Jimmy Kimmel show to return after suspension over Charlie Kirk comments)