路上に響くガラスを破る音。その一瞬の犯行の背後に、数百万レアル規模の犯罪ネットワークが潜んでいた――。サンパウロ市内で車上荒らしを繰り返していた犯罪組織が、スマートフォンを盗み出した後、被害者の銀行口座に不正アクセスし、巨額の資金を詐取していたことが判明した。警察は13日、同組織に対する一斉摘発を実施し、2人を逮捕した。被害者の損失額は、総計で92万4800レアル(約2573万円)を超えるとされ、同組織の犯行規模の大きさと悪質さが浮き彫りとなったと同日付G1などが報じた。 セントロ周辺、リベルダーデ付近でも日系人や駐在員の乗る車が狙われ、信号待ちの間に近づいてきた青年らに窓ガラスを割られて、携帯電話を盗まれる手口の被害が多発している。東洋街下町のグリセリオ街周辺での被害報告は特に多く、一部で日本人から〝地獄谷〟と呼ばれる区域もあった。 捜査は、今年7月にサンパウロ市セントロで発生した検察官アントニオ・カリル・フィーリョ氏の車を狙った事件が端緒となった。犯行当時、同氏の車の窓ガラスが割られ、車内の携帯電話が盗まれた。警察は端末の位置情報を追跡し、グリセリオ地区にある一軒の建物を特定した。現場は「犯罪司令部」として機能しており、押収された物品は、携帯電話15台、車両2台、カード決済端末、インターネットルーター、SIMカード、及び不正取得の疑いがある文書類に及んだ。 押収物の分析と容疑者の携帯電話から抽出したデータにより、犯罪組織の体系的かつ構造的な運営が明らかになった。組織は、指揮・受け取りを担当するグループ、路上で犯行に及ぶ実行犯、銀行口座を提供して詐欺に利用する「トリペイロ(「詐欺に利用される銀行口座の管理者」を意味する犯罪俗語)」、さらに後方支援を担う物流班の四つの役割で分業されていた。 警察の説明によれば、盗んだスマートフォンを介し、被害者の銀行アプリに不正アクセス。預金を「ダミー口座」やペーパーカンパニーの口座に送金し、資金洗浄が組織的に行われていたという。 今回の摘発では60人以上の警察官が出動し、組織のボスらに対し4件の一時拘束令状が発行されたほか、サンパウロ州内及び北東部セアラー州にまたがる住宅や事業所27カ所で、家宅捜索及び押収が実施された。 加えて、裁判所の許可のもと、容疑者及び関連法人の金融資産、暗号資産を含む投資資産の凍結措置が取られ、その凍結総額は約91万5006レアル(約2545万)に達する。さらに犯罪組織が資金洗浄のために利用していた複数の法人には、経済活動の停止及び法人格の抹消措置が実施された。 本件は「ブロークン・ウィンドウ作戦」の一環であり、7月の検察官の携帯電話盗難事件を端緒に開始された第1フェーズの捜査を経て、今回の第2フェーズとして大規模な摘発が行われたもの。第1フェーズでは、盗難事件の追跡によりグリセリオ地区にある犯罪拠点の特定・押収が行われ、組織の役割分担や犯罪手口の詳細な解明が進められた。 続く第2フェーズは、主要指導者への拘束令状発出や複数拠点への家宅捜索、資産凍結措置を伴い、窃盗、詐欺、強盗、偽計業務妨害など複数の犯罪類型に関連する組織の完全解体を目指す決定的な一歩となった。 同組織に所属する他の2人は現在も逃走中で、警察は追跡を続けている。