「匿名盾に一斉攻撃」 続く兵庫県議への中傷、県政チェック萎縮懸念

斎藤元彦・兵庫県知事が県議会の不信任決議を受けて失職し、出直し知事選で再選されて1年がたった。交流サイト(SNS)などでは斎藤氏の疑惑を追及した県議を中心に中傷が続き、県政チェックが萎縮するとの声もあがる。実態を取材した。 4月初旬、県庁で初対面した記者を机越しに見つめ、丸尾牧県議はこわ張った表情で視線を泳がせた。「最近、スマートフォンで撮影しながら事務所にやってきたユーチューバーに似ていた。記者を名乗って来たのかと……」。丸尾氏はつらそうに言った。「知らない人に声をかけられるのが怖いんだ」 斎藤元彦知事らの疑惑を告発した文書の内容を調べる県議会調査特別委員会(百条委)で、1月に亡くなった竹内英明元県議(当時50歳)とともに委員を務めた丸尾氏。竹内さんへの名誉毀損(きそん)容疑で逮捕された政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者から、竹内さんとともに告発文書を作成した「黒幕」として中傷された。今も交流サイト(SNS)などで匿名の攻撃を受け、中傷メールや注文していない物品の送りつけ被害まで受けた。 今も体に力が入らず、不安感や緊張で毎日午前3時には目が覚める。睡眠薬に頼った日もあった。 立花容疑者に対しては名誉を毀損されたとして民事裁判で損害賠償を求めている。一方で、昨年12月以降、X(ツイッター)などの悪質な中傷投稿約100件について約400万円をかけて発信者の開示や投稿の削除を請求。一部で開示や削除が命じられたが、Xの運営会社は開示に応じていない。 丸尾氏は訴える。「立花容疑者らの言動が目立つが、実際に一斉攻撃してくるのは一般の群衆。匿名を盾にしてくることが問題を難しくしている」 丸尾氏以外にも複数の県議が大量の中傷メールを受け、中には「事務所を爆破する」などの内容もあった。一方で、県議の政務活動費の不正申請が発覚し、県議会への信頼が揺らいだ。 「政活費の問題での県議辞職は痛かった。(2014年に発覚した)前の不正申請の時とは攻撃の数と質が全然違う。委員会での発言も切り取られるのではと、かなり気を使っている」 文書問題の追及を続けてきたあるベテラン自民党県議は言う。自民県議団では所属する県議がSNS上で政活費でのホテル宿泊の多さを指摘され、県議は9月に説明のつかない申請があったことを認めて辞職した。指摘は県議会常任委員会でこの県議が斎藤氏をやゆする発言をした後に急増していた。 百条委などで斎藤氏を追及した議員を中心に、高速道路の利用履歴やガソリン代、事務所の人件費などを巡って厳しい書き込みがSNS上で続いている。「ルールに従って適正にやっていても名指しで攻撃される。議員全てが敵に見えるのか、『解散しろ』や『議会は不要』など、匿名で攻撃的な言葉を投げてくる人も多い」と別の県議は話した。 こうした状況を受け、県議会では斎藤県政をチェックする議論が萎縮しているとの声もある。ある県議は「SNSでの発信を控えたり、活動報告をやめて無難なことのみ発信したりする議員が増えた」と感じている。問題追及を続けたことで、消印のない中傷の手紙が自宅に届いたというこの県議はこう力を込めた。「今の状態がまともなはずがない。『選挙に通った知事になぜ盾突くのか』とよく言われるが、議会は首長をチェックするのが仕事。知事の下請けではないんだ」【稲生陽、山田麻未】

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