【スペシャルエディション版発売記念!】『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』亀山陽平監督インタビュー

かみ合う音とアクション、3Dアニメの新星『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』 What’s 『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』 夜のドライブ中にスピード違反等々で逮捕されてしまったチハルとマキナ。二人は同じく逮捕されていたアカネとカナタ、カートとマックスと共に、刑期短縮のため惑星間走行列車の車内清掃に取り組むことになる。しかし彼女たちを乗せた列車は宇宙へ誤発進し…。2022年に発表されたショートアニメ『ミルキー☆ハイウェイ』の続編。ポップな演出の3DアニメーションによるSFコメディ。ほぼすべての制作を亀山陽平監督が一人で手がけた。 アカネ 大道寺朱音。宇宙暴走族・ギャラクシースピリッツの総長。怪力。口数は少ないが責任感が強く仲間思い。 カナタ 岩男鉄多。宇宙暴走族 カート・ギャラクシースピリッツの一員。虚勢を張りがちで相手を選ばずケンカを売るが、弱い。 マキナ 来栖真希菜。ケンカっ早くしばしばトラブルを起こす。機械系に強い。アイドル・水無瀬ミナミのファン。 チハル 九乗千春。マキナとは付き合いの長い友人。お人よしの性格だがそれによってトラブルに巻き込まれることも。 マックス カートと同じ会社の社員。ガジェット操作に長ける。明るくとぼけた調子でしゃべる。他人には無関心。 カート 法的にグレーな仕事を請け負う防衛サービス会社の社員。陸軍出身の退役軍人。淡々として物静か。他人には無関心。 監督・亀山陽平が語るアニメーションの魅力。映像の気持ちよさがキャラクターを魅力的にする 今年7月に放送開始後、たちまち口コミで話題となった『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』。亀山陽平監督にお話を伺いました。 ── 本作は大きなトレンドになりました。なぜこれほどの反響を呼んだのでしょう? 亀山陽平監督(以下、亀山) 制作する上で意識していたのは、ビジュアル的な印象の強さです。言葉で表せるようなテーマより、画(え)としての表面的な面白さのほうが、映像作品では人を引きつけやすいと思っていて。例えば、メカメカしいサイボーグのキャラクターが髪型をずっといじってると、そのギャップが面白い。そういうふうに、ビジュアルの強いキャラクターが血の通った人間としてリアルな動きをしていることで、映像が魅力的になるんです。まず面白い映像にしたいというのがそもそもの目的としてあって、それが結果的に受け入れてもらえたんだと思います。 ── 複数人のセリフが重なったり、相手の言葉の途中で重なるように応答が始まったりする演出も印象的です。これもリアルさを意識してのものでしょうか? 亀山 そうですね。尺が短いというのもあるんですが、音が重なってガヤガヤしているほうが本当っぽく見えるだろうなと思ってそうしています。相手の言葉に返事をかぶせるのは、そういうテンポ感だと見ている側も気を抜けない感じになるかなという演出上の意図もありますね。でももちろん人間は常に相手の言葉にかぶるしゃべり方をしているわけではないですし、ちゃんと聞いてほしいセリフは聞き取りやすいように入れています。 ビジュアルからキャラが生まれる ── メインとなる3組のバディの男女比は、意図して配分されたのでしょうか? 亀山 男女比はある程度バランスがいいほうがいいかなという意識はありましたが、実際は自分がやりたいことをやっていったら自然と均等になった、という感じです。友達として仲良くしてる2人を見ているのが個人的に好きで、それでまずチハルとマキナがいて、男子ペアとしてカートとマックスがいて…アカネとカナタは、作品のまとまりとしてああいう外見の人たちが欲しかったんですよね。アカネは前作の『ミルキー☆ハイウェイ』の頃から、あんな感じの暴走族の女総長というアイデアはありました。で、少年キャラも動かしたい気持ちがあってカナタが生まれて。 ── チハルとマキナは前作からの主人公ですね。カートとマックスも前作の頃からアイデアがあったのでしょうか? 亀山 チハルとマキナは前作の段階ではそこまで細かくキャラクターを決めていなかったので、物語をつくるために深掘りしていきました。ちょっと共依存的な二人なんですが、少しディープなくらいの関係のほうが主人公として面白いと思ってそうしています。カートとマックスは『ミルキー☆ハイウェイ』をつくる前から考えていたキャラクターですね。実は昔、彼らのコミックも描いていて…その頃は名前とかも違ったんですけど、自分の頭の中にずっといた二人です。仕事はできるけどやる気を出さない人たちで、そういう人が1人だと感じが悪いかもしれませんが、心を許した者同士が仲良くしていることで、見ている側が好きになれる要素ができるかなと。 ── カートとマックスが機械のように扱われてきた過去が示唆される回もありました。サイボーグだから差別されていたのでしょうか? 亀山 いや、もっと一般的な話です。飲食業や清掃業をしている人が、時にサービスを提供して当然、みたいに扱われてしまうというのは現実にもある話だと思います。あの世界だから、サイボーグだからというより、現実に存在している、どこにでもある悩みなんです。そういう悩みをキャラクターが持っているというのが大事だと思っています。 ── カートは暗い人でマックスは明るい人というコンビですが、二人の性格は亀山監督の中で以前から同じですか? 亀山 そうですね。自分の場合、性格ってビジュアルとリンクしていると思っていて、見た目を決めた時点でだいぶ性格も決めているんです。例えばカートの表情ってやはり性格から来るものだろうと思う。マックスの表情はわかりにくいですが、ああいう髪型をする人だし、ああいう性格だろうという。まあ、カートの性格ではワインレッドの上着は着ないかもしれないんですが…あれを着てもらわないと、キャラクターを並べた時に画面が引き締まらないんですね。あの服に入っている英語の文字も、ライムグリーンが色として欲しかったという絵的なバランスで決めています。でもさすがにカートがあの文字の入った上着を選ぶわけがないので、そこに関してはマックスがいたずらで書いたということにしているんですが。ビジュアルをパッと見で映えるものにしたいというのは『ミルキー☆ハイウェイ』の制作時にもあって、その時に出した答えがチハルとマキナの顔をカラフルにすることでした。安直ではあるんですが、そういうところがとっつきやすさにつながっているのかなと思います。 ── ちなみに、カートとマックスは作中で二人でゲームをしていますが、上手なのはどちらなんでしょう。 亀山 基本的にはカートが初心者です。マックスが詳しくていろいろ教えてあげているんですが、マックスはプレイ中にあれこれ指示を出してくるやつ、みたいな感じです。 一貫した物語がある短編アニメの手応え ── 制作側として、ショートアニメの魅力はどんな点にあると思いますか? 亀山 アニメってやっぱりつくるのが大変なんです。日本では、制作コストを抑え、それなりの完成度の映像を毎週30分出すという30分アニメの文化が根づきました。でもそれ以前の黎明期のアニメーションを見ると、すごく丁寧に動いているんですね。いま自分のつくるものがショートアニメになっているのはコスト的な理由が大きいですが、自分がこだわりたい部分は細部にまでこだわれるし、短いからこそ見る側も細かい要素を楽しめる面はあると思います。これはこれでアニメーションのある種の正解なのかなと。 ── 監督ご自身がお好きな作品はありますか? 亀山 1960年代、1970年代のアメリカのクラシックカートゥーンが好きなんです。有名なところだと、『トムとジェリー』とか『ルーニー・テューンズ』とか。動きの美学がしっかりあって、アニメーションによって人を楽しませようとしていると感じます。それと、ディズニーの『蒸気船ウィリー』。歴史上初めて音楽とアニメーションがリンクする演出が組まれた作品なんですが、これでミッキーマウスは爆発的な人気になりました。音と動きが組み合わさった気持ちよさというのは『ミルキー☆サブウェイ』でも評価していただいているもので、時代を超えた普遍的な魅力があるんだと思います。 ── 今後、長編の新作に挑戦したい気持ちはありますか? 亀山 『ミルキー☆サブウェイ』の3分半はさすがに短すぎたかもと思っていて…1話7分くらいはあってもいいのかなと。それこそ『トムとジェリー』とかもだいたい1話10分弱の尺なんです。だからそれぐらいの作品を手がけられる制作体制は持ちたいと思っています。劇場作品もやってみたいですね。『ミルキー☆サブウェイ』は3分半をぶつ切りで見せていくことを前提につくっているんですが、劇場作品なら2時間弱なり1時間半なりのフォーマットありきで演出を考えてやってみたいです。ただ、今の体制ではちょっと規模を拡大するのは難しい。あまり一人で制作することにこだわりはないので、自分がやってみたいものがつくれる制作環境にしていくというのはこれからの課題です。 ── ストーリー作成についてはどうお考えですか? 亀山 自分はやっぱり瞬間瞬間の面白さがアニメーションにとってまず大事だと思っているので、物語はそこまで重視していませんでした。でも『ミルキー☆サブウェイ』の感想を見ていると、話に興味を持ってくれる人が多くいて、やっぱりエンターテインメントをやるうえではストーリーも重要なんだなと。先ほど触れたクラシックカートゥーンと『ミルキー☆サブウェイ』が決定的に違うのは、連続する物語になっていることなんです。キャラクターの目的がショートアニメの12話を通して一貫していて、ひとりひとりが物語を持っている。それがどれくらい受け入れられるかは気になっていたんですが、幸い好評をいただけました。今後も短編アニメーションとして成立させたうえで、次はもっとストーリーづくりもうまくなりたいですね!

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