社説:香港民主派弾圧 自由と活力を奪う中国

香港の自由への弾圧が極まっている。 民主派香港紙、蘋果(ひんか)日報(リンゴ日報=廃刊)の創業者、黎智英氏に高等法院(高裁)が有罪判決を言い渡した。 民主化運動の象徴的存在の一人だったが、中国政府の主導で5年前に施行された香港国家安全維持法(国安法)の違反などに問われて起訴、拘留されていた。 国安法事件の裁判官は、親中派の行政長官が指名した。検察側の主張を全面的に認めた判決は、公正とは思えない。 直前には、香港民主派の代表的政党・民主党が、解散を正式に決めた。幹部らが相次いで逮捕され、立法会(議会)選挙からも事実上排除されていた。 最後の民主派政党の解散で、自由と人権を求める声を代弁する政党が消滅する。 1997年の香港返還時、中国は国際社会に「高度な自治」を保障すると約束した。しかし、わずか30年足らずで「一国二制度」の形骸化は深まる一方だ。 今月投票の立法会選挙では、親中派が全議席を独占した。 中国政府は「民意を十分に反映した選挙だ」と主張するが、立候補には事前審査で「愛国者」と認定されることが要件とされるなど、異論を締め出した上で選択肢はなかった。 香港政府は、4年前に民主派を排除して半減した投票率の引き上げに躍起だったが、微増の31%にとどまった。 白票を含む無効票の割合が返還後最高の3%に上り、棄権の多さとともに抗議の意思が示されたといえよう。 報道機関や市民団体が国安法の監視下に置かれ、議会や司法が中国政府の意に沿うありさまでは、政治・社会のチェック機能がないに等しい。 160人が亡くなった先月の高層住宅群火災では、業者の監督を怠っていたと当局を批判したり、独立調査委員会の設置を求めたりした市民が逮捕されている。 強権による抑圧から逃れようと、富裕層らの海外流出が相次いでいる。地元メディアによると人口約750万人のうち、2019年からの5年間で少なくとも約30万人が海外移住したという。 国際金融都市の香港は、中国経済の成長エンジンの一つであった。その根源は、自由闊達(かったつ)な市民社会に他ならない。締めつけの強化は、民衆と都市の活力を奪うばかりだ。

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