欧州CLビニシウスの一件で注目されるサッカー界の人種差別問題 久保建英も昨年1月に被害

先月17日の欧州チャンピオンズリーグ(CL)・決勝トーナメントプレーオフ第1戦ベンフィカ対レアル・マドリードでの人種差別問題が深刻な事態に至っている。 ■ベンフィカ側は反論、真っ向対立 事の発端はRマドリードFWビニシウスがゴールを決めた後、ベンフィカMFプレスティアーニがユニホームで口元を隠しながら何かを発言。これを聞いたビニシウスが主審に駆け寄り、『モノ(猿)』と言われたことを告発したことだった。 試合後にはエムバペが、「背番号25の選手がビニに対し、『お前はモノだ』と5回も言っていた」とチームメートを擁護。一方、プレスティアーノはそれを「でっち上げ」と反論。『モノ』ではなく『マリコン(ホモセクシュアル)』と言ったと主張した。問題はこれだけではなく、試合中にベンフィカサポーターがビニシウスに対し、猿をまねたジェスチャーをするシーンも目撃されていた。 Rマドリードが入手可能な証拠をすべてUEFA(欧州サッカー連盟)に提出した一方、ベンフィカはプレスティアーニを完全擁護し、両クラブは対立関係となった。UEFAはすぐに調査を開始し、プレーオフ第2戦は人種差別疑惑により、プレスティアーニに暫定出場停止処分を下した。 プレスティアーニが口元を隠していたため、最終的に人種差別発言があったかどうかを判断するのは非常に難しいだろう。しかし、このような問題は今に始まったことではない。欧州では以前からスタジアムで度々起こっている。 ビニシウスが普段プレーするスペインで、サッカー場での人種差別が初めて世間の注目を集めたのは、おそらく93年のラヨ・バリェカノGKウィルフレッド・アグボナババレの一件だ。ベルナベウでRマドリードサポーターから侮辱を受け、「スペインには人種差別がある」と明言した。しかし、当時は人種差別に対する規定は存在せず、処罰されることはなかった。 ■「中国人、目を開けろ」とやゆ この問題はそれ以降も後を絶たない。有名なところでは、サミュエル・エトー、ダニエウ・アウベス、ロナウド、ロベルト・カルロス、マルセロ、カルロス・カメニ、イニャキ・ウィリアムズなどが被害に遭っている。 久保建英も昨年1月に標的となった。タッチラインでアップしていた際、複数のバレンシアサポーターから「中国人、目を開けろ」と、アジア人をやゆする時に使う言葉で人種差別的な侮辱を受けていた。 ビニシウスの今回のケースのように、ピッチ上で選手から直接受けた人種差別的な侮辱で言えば、近年ではサミュエル・ウムティティ、ジェフェルソン・レルマ、ムクタル・ディアカビの件が取り沙汰されている。 世界中で大注目される問題となったのは、10-11年シーズンの欧州CL準決勝第1戦のクラシコでのこと。マルセロがセルヒオ・ブスケツから人種差別発言を受けたとして、RマドリードがUEFAに訴えを起こした。しかし、ブスケツはプレスティアーニのように聞き間違えを主張し、最終的に証拠不十分で処分は下らなかった。 ビニシウスはこれまで、今回のように選手からピッチ上で人種差別的な侮辱を受けたことは一度もなかったが、相手サポーターから受ける被害は数多く、常軌を逸した行為で逮捕者も出ている。 ■23年5月には試合が一時中断 ビニシウスへの人種差別が初めて告発されたのは21年10月のクラシコ。以降、マジョルカ、ラヨ・バリェカノ、アトレチコ・マドリード、バリャドリード、オサスナ、ベティス、バレンシア、セビリア、オビエド、レアル・ソシエダード、アルバセーテの会場で同様の事態が起こり、その数は20以上となっている。 中でも23年5月のバレンシア戦は大事件に発展した。人種差別的な侮辱を受けたビニシウスがスタンドのサポーターに抗議したことで試合が一時中断。さらにビニシウスをののしる言葉がスタジアム全体で大合唱された。1年後、サポーター3人に8カ月の禁錮刑が言い渡されたが、これは実にスペインサッカー史上初となる人種差別行為に対する有罪判決となった。しかし、それ以降もビニシウスの法的な闘いは続いている。 なぜビニシウスだけがここまで人種差別を受け続けるのだろうか。 この件に関してはスペイン国内でさまざまな議論が交わされている。ビニシウスは他の選手と異なり、被害を受けるたびに声を上げ、サポーターに立ち向かい、人種差別を公然と非難してきた。その結果、加害者の敵意が強まり、事態がエスカレートし、継続的な標的になっているとの見方がある。 一方、批判的な人たちの中には、挑発的なプレースタイルやゴールパフォーマンスが人種差別を受ける原因と考える者もいる。ビニシウスの行動を好まないサポーターが一定数いるのは確かであり、いくつかのスタジアムでは試合前から激しいブーイングが飛んでいる。 しかし、例えばベンフィカ戦でビニシウスがゴールパフォーマンスでサポーターをあおったことが原因と取れる発言をモウリーニョ監督が行ったことに対し、アルベロア監督が「被害者を扇動者にしてはいけない」と反論したように、ビニシウスの振る舞いと人種差別は全く別の問題と捉えるべきだ。 また、この問題はビニシウスが敵地で突出した能力を発揮するための障害となっていた。相手サポーターとの衝突を繰り返し、24年10月から昨年8月にかけて、アウェーでのスペインリーグ10試合連続無得点という時期があった。そのため、人種差別的な侮辱をするまでには至らないにもしても、ビニシウスの精神面にダメージを与えるという点で、汚いやじが効果的と考えるサポーターもいるだろう。 人種差別対策は以前に比べて大幅に改善されているものの、依然として無自覚に選手を侮辱する人たちが一定数いるのも事実だ。同じようなことが繰り返されないためにも、今回の件が根本的な解決につながるきっかけになることを切に願う。 【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

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