残念ながら「理不尽なシゴキ」の効果は絶大…この世からブラック企業が絶滅しない人類学でみたメカニズム

なぜブラック企業はなくならないのか。オックスフォード大学社会人類学講座のハーヴィー・ホワイトハウス教授は「ブラック企業や軍隊、カルトなどの組織は結束が強く、士気が高いからだ。背景には、過酷な研修や通過儀礼といった苦難の共有がある」という――。 ※本稿は、ハーヴィー・ホワイトハウス『本能の人類史』(草思社)の一部を再編集したものです。 ■熱帯雨林の奥深くで体験した通過儀礼 この問題に私が初めて魅了されたのは1980年代に遡り、パプアニューギニアの熱帯雨林の奥深くで、通過儀礼を経てバイニング人の部族に迎え入れられたときのことだった。 バイニング人の間では、通過儀礼を経なければ一人前の大人とは見なされない。特に、踊りのときに使う神聖な衣装の着用を許されない。したがって私は、通過儀礼を経た男として初めて踊ったときには、おおいに誇らしく思ったものだ。木の葉で体を覆い、樹皮布のお面をつけていたので、白人である私の手の甲の肌が白くなかったら、誰も私だとはわからなかっただろう。この衣装は伝統的に、正体を隠して変性意識(トランス)に似た状態で殺意を伴う暴力行為を実行するときに身につけることが多かった。 過去には、そのような衣装を身につける権利を獲得するには、激しい苦痛を味わう手順を踏む必要があった。背骨の底部に尖らせた骨を刺すこともその一手順で、その後その骨は、踊っている間に重いお面を支える固定器具のような役目を果たした。また、頭飾りの鮮やかな着色は、尖らせた葉で自分の舌を擦(こす)っては吐き出した血を、その飾りがぬらぬらと深紅色にきらめくまで塗りつけることで行った。 ■苦難をともにすると「絆」が生まれる 私はいっしょに通過儀礼を終えたばかりの仲間たちと誇らしげに踊り、歌ったが、今日では、キヴングの指導者たちが他者を殺したり害したりするのを禁じているために、私のような若者は、通過儀礼のとりわけ苦痛に満ちた手順は免れることができた。これはつまり、私は自分の体を儀式的に傷つけたり、集団の敵に対する襲撃隊への参加を求められたりしないということであり、ありがたかった。 とはいえ、男性の儀式の秘伝を授けてもらう過程では、年長の男性たちが経験した厳しい試練の生々しい描写を聞かされ、その手順がどれほど苦しいものだったかを思い知らされた。そのような試練をいっしょに味わった男たちは、戦士になった。そして、真の戦士たちは、大胆不敵な襲撃の間だけではなく、自らのコミュニティが攻撃を受けたときにも、誰もが仲間に庇(かば)ってもらえると思って間違いなかった。

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