ウクライナ出身富豪を狙ったモナコの爆発事件、拘束下の容疑者をBBCが単独取材

サラ・レインズフォード南東欧特派員、マリアナ・マトヴェイチュクモナコで6月末に起きた、ウクライナ出身の富豪とその家族を狙った爆発事件で、関与が疑われているウクライナ保安当局の元職員がこのほど、BBCの単独取材に応じた。男性容疑者は、爆発事件はウクライナ国防省情報総局(HUR)高官が指示したものだと認識していると証言した。ヴィタリ・ジコヴィチ容疑者は弁護士の仲介により、キーウの拘束施設からBBCの単独インタビューに応じた。同容疑者が、富豪の暗殺未遂事件について自らの見解を語ったのは今回が初めて。爆発事件は6月29日にモナコで起きた。ウクライナ出身の富豪ワディム・イェルモライエフ氏と13歳の息子が重傷を負い、イェルモライエフ氏のパートナーも大けがを負った。イェルモライエフ氏は後に、自分たちが生き延びたのは「奇跡としか言いようがない」と語った。ジコヴィチ容疑者は、自らをウクライナ保安庁(SBU)のために働く「フリーランサー」だったと説明している。モナコで爆発物を仕掛ける様子がカメラに捉えられていたウクライナ人のアナスタシア・ベレゾフスカ容疑者については、自分に協力する「エージェント」だったとしている。爆発事件から1週間後、ウクライナ・キーウ州西部の森林地帯でベレゾフスカ容疑者の遺体が見つかった。頭部には銃創があった。しかし、ジコヴィチ容疑者は、ベレゾフスカ容疑者を殺人の実行役として送り込んだわけではないし、自分はベレゾフスカ容疑者を殺してもいないと主張している。ジコヴィチ容疑者は、ウクライナ国防省情報総局(HUR)の現役職員ウラディスラフ・ロイト容疑者とともに、ベレゾフスカ容疑者を殺害した疑いで逮捕された。ロイト容疑者は当初、捜査当局に犯行を自白し、ベレゾフスカ容疑者の遺体が埋められた地点まで捜査員を案内した。しかし数日後に出廷した際には証言を覆し、殺害したのはジコヴィチ容疑者だと主張した。■情報当局高官が殺害を指示とジコヴィチ容疑者は長らく、事件について沈黙を守っていた。しかし今回、BBCの取材に答えた。その中で、ロイト容疑者を「ボス」と呼んでいたと明かし、イェルモライエフ氏を狙ったモナコでの「作戦を提案した」のはロイト容疑者だったと主張した。ジコヴィチ容疑者は、これを公的な任務だと理解していたという。「ロイトから受けた説明では、この作戦は(中略)ウクライナ国防省情報総局に所属するロイトの上司によって承認・許可されたものだった」爆発そのものについては自身の関与を否定しつつ、ジコヴィチ容疑者は、ロイト容疑者がベレゾフスカ容疑者に爆発を実行させようと考えていたと説明した。しかし、ベレゾフスカ容疑者が十分な訓練を受けていないことを理由に、ジコヴィチ容疑者はこの提案を拒否したという。ロイト容疑者は、ベレゾフスカ容疑者に偵察をさせることで同意したという。ロイト容疑者はその後、ジコヴィチ容疑者を介さずに、ベレゾフスカ容疑者と直接連絡を取るようになったという。ジコヴィチ容疑者は、爆発物をベレゾフスカ容疑者に渡したのもロイト容疑者だったと主張している。BBCは今回の新たな証言について、HURにコメントを求めた。HURは以前、「徹底的な調査に取り組んでいる」とし、法執行機関に「包括的な支援」を提供していると説明していた。一方、SBUは声明で、ジコヴィチ容疑者について「元法執行職員」としか説明していない。■爆発事件イェルモライエフ氏は6月末、家族と海辺で夕食を取って帰宅する際に爆発に遭った。監視カメラ映像には、ベレゾフスカ容疑者が3人の少し前を歩き、爆発物が入ったバッグを集合住宅のエントランスに置く様子が記録されていた。3人がエントランスに近づいた瞬間に爆発が起こった。その威力に、ベレゾフスカ容疑者も驚いたように見える。イェルモライエフ氏は後に、HURの「現役職員や元幹部らに近い人物」が爆発に関与していたと考えていると述べた。そして、「真実と保護と正義」を求めるとした。ベレゾフスカ容疑者は事件後すぐに、爆弾を仕掛けた容疑者として特定された。国際刑事警察機構(インターポール)は7月2日、監視カメラ映像から抜き出したベレゾフスカ容疑者の画像を公開した。しかし、同容疑者はこの時点ですでに国外へ逃亡していた。イタリアを通ってドイツへと車で移動し、同国フランクフルトからバスでウクライナに入った。ベレゾフスカ容疑者は、ロイト、ジコヴィチ両容疑者に森林地帯へ連れ出され、殺害された。2人は互いに、ベレゾフスカ容疑者を銃撃したのは相手の方だと主張している。■犯行の目的はこの衝撃的な事件では、いったい誰がイェルモライエフ氏の殺害を望んだのか、国家による暗殺未遂なのか、それとも独断で行われたものなのか、犯罪組織の何らかの報復だったのか――といった疑問をめぐって、臆測が飛び交っている。キプロス国籍を持つイェルモライエフ氏は、数年前にウクライナ国籍を放棄し、モナコで暮らしている。同氏はこの事件をめぐるさまざまな見方を否定している。その中には、ウクライナ国内の、巨額の利益を生む詐欺コールセンターに関係する、組織犯罪グループ間の対立と関連があるとする見方もある。エストニアの裁判所は今年、イェルモライエフ氏の息子アルトゥール氏について、ウクライナで「オフィシー」と呼ばれる詐欺ネットワークを通じ、エストニア市民から数百万ユーロをだまし取った罪で有罪判決を言い渡した。イェルモライエフ氏はウクライナ紙「ウクラインスカ・プラウダ」に対し、自分はこの事件とは「一切関係がない」と語っている。一方、ジコヴィチ容疑者はBBCに別の見方を示した。ジコヴィチ容疑者によると、ロイト容疑者は、モロッコでの爆発は「クリミア併合への資金提供」に対する報復だと話していたという。この発言が、ロシアが占領するウクライナ南部クリミアでイェルモライエフ氏が事業を営み、ロシア側に税金を納めていたことを意味するものだと、ジコヴィチ容疑者は理解したとした。「これが作戦を実行する根拠になったと私は思う」イェルモライエフ氏は、ロシアに関連する事業上の利害関係についても繰り返し否定してきた。しかし、この事件には、さらなる謎が残されているかもしれない。ジコヴィチ容疑者はキーウでの拘束に関する審問で、重武装の警備員に囲まれながら、逮捕後初めて公の場で発言した。これに立ち会った報道機関はBBCだけだった。この審問でジコヴィチ容疑者は、ロイト容疑者から、モナコでの爆発は「承認された」ものではなかったと聞かされたと発言した。また、「民間側の何者かが、この人物を標的にするよう指示した」と述べたが、詳しくは説明しなかった。すると、裁判官が容疑者の言葉を遮り、審問が公開で行われていることを念押しした。ジコヴィチ容疑者は、ロイト容疑者が当初、標的は2人いると話していたとも明らかにした。これについてBBCが尋ねると、ジコヴィチ容疑者は2人目の名前は明かせないと答えた。複数の情報筋は、2人目の標的は親ロシア派のブロガーだった可能性が高いと示唆した。この人物は昨年、ウクライナで国家反逆罪に問われ、欠席裁判で有罪判決を受けた。モナコでの爆弾事件とウクライナでの殺人事件の両方の捜査が続く中、ベレゾフスカ容疑者の家族も多くの疑問を抱えている。39歳だったベレゾフスカ容疑者は、2022年初めに幼い息子とともに難民としてウクライナを離れ、ドイツで暮らしていた。しかし、ジコヴィチ容疑者は、ベレゾフスカ容疑者が二重生活を送り、自分の協力者として「モスコヴィ」、つまりロシアに対抗するエージェントとして活動していたと主張している。ジコヴィチ容疑者によると、2人はインターネット上で知り合い、「ロシア連邦による武力侵略を撃退する」ために活動していたという。一方、ベレゾフスカ容疑者の夫はBBCに対し、ジコヴィチ容疑者の主張は「ばかげている」とBBCに述べた。夫は、妻が事情を知らないまま、事件に巻き込まれたと考えている。ジコヴィチ容疑者は、モナコでの事件の翌日にベレゾフスカ容疑者から電話がかかってきたとしている。なぜ爆弾を仕掛けたのか尋ねると、ベレゾフスカ容疑者は、ロイト容疑者から多額の報酬を約束されたと答えたという。「5万ドルなんて、道端に落ちているような金額じゃない」とベレゾフスカ容疑者は話したとされる。ベレゾフスカ容疑者が暮らしていた村の住民は、同容疑者が集合住宅の一室を購入するために資金をためていたと、BBCに証言した。しかしベレゾフスカ容疑者は、その資金を受け取るためにウクライナへ向かった後、森林地帯に誘い込まれて射殺された。(追加取材:アナスタシア・レフチェンコ、ウォロディミル・ロズコ)(英語記事 Suspect linked to Monaco bomb attack on millionaire speaks to BBC from Ukrainian prison)

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