ブラジル大統領選、両候補の治安対策案の違いとは

今年の大統領選挙で決選投票に進む2人の候補者は、治安対策に関する提案を政府計画の中で大きく位置づけている。アプローチは異なるものの、組織犯罪対策や女性に対する暴力の防止、国境警備の強化、刑務所制度の強化などが、両陣営の政策文書に盛り込まれている。フラヴィオ・ボウソナーロ氏は、たとえばコマンド・ヴェルメーリョ(CV)やプリメイロ・コマンド・ダ・カピタウ(PCC)といった犯罪組織を「麻薬テロ組織」として分類することを主張している。この措置は、米国のドナルド・トランプ大統領も支持している。一方ルーラ氏は、組織犯罪は憲法と民主的法治国家の枠内で、ブラジルの主権を損なうことなく、断固とした姿勢で、財源を断つ「資金面の締め付け」によって対処すべきだと強調する。以下に、ルイス・イナーシオ・ルーラ・ダ・シウヴァ(労働者党:PT)氏とフラヴィオ・ボウソナーロ(自由党:PL)氏の治安対策の主な提案を示す。両陣営の政策文書は選挙裁判所に提出されている。<組織犯罪>両候補が取り上げているテーマの一つが、犯罪組織および組織犯罪への対処だ。フラヴィオ氏は、コマンド・ヴェルメーリョ、プリメイロ・コマンド・ダ・カピタウ、そしてミリシア(地域を支配し、恐喝や違法ビジネスで収益を得る準軍事組織。元警察官、現職警察官など治安関係者が関与することが多い)を「麻薬テロ組織」として宣言し、武力・情報・連携によって徹底的に対処することを提案している。同候補の提案は、犯罪組織のリーダーを逮捕し、違法ビジネスを締め付け、資金洗浄ネットワークを解体するというものだ。さらに、同氏は「ライフルで武装した犯罪者を射殺する」ことも主張している。ルーラ氏は、組織犯罪はあくまで憲法と民主的法治国家の枠内で、断固とした姿勢で対処すべきだと述べ、組織犯罪の資金源を断つこと、そして武器・弾薬の密輸に対処することを提案している。また、武装勢力が支配する地域の奪還を進めるため、ファヴェーラや周縁地域の都市整備への投資を優先し、公共空間の再整備、生活必需サービスへのアクセス拡大を通じて、合法的な経済活動を促進する方針を掲げる。さらに、組織犯罪と関係する人物の立候補を阻止するための取り組みも進めるとしている。ルーラ氏は、今年制定された「反ファクション(犯罪組織)法」(組織犯罪対策の新たな法的枠組みを定めた法律)を挙げ、犯罪組織への対処を強化すること、そして2026年に創設された「ブラジル組織犯罪対策プログラム」の強化にも言及している。<州・市との連携>ルーラ氏は、治安当局の職員を適切に評価し、警察活動を強化し、正当な武力行使を確保し、国民の治安機関への信頼を高めることを主張している。提案は、連邦・州・市の各主体と協力しながら、地域密着型警察のモデルによるプログラムを構築し、ボディカメラの使用促進策を拡大するというものだ。映像の使用、管理、保存について全国的な基準を設けることも含まれる。同候補はさらに、より連携の取れた国家治安システムの構築を提案している。これは、各主体間の調整を強化し、データ統合、機関間協力、情報分析、予防、質の高い取締り、エビデンスに基づく政策を進めるためのものだ。その柱となるのが、すでに国会に提出されている「治安に関する憲法改正案(PEC)」の承認である。目的は、各主体の役割を見直し、暴力対策における連邦政府の行動範囲を拡大することにある。PECが承認されれば、同候補は州・市との連携を担う「治安省」の創設を目指す。一方、ボウソナーロ氏は、全国規模の顔認証システム「ムラーリャ・ブラジレイラ(ブラジルの防壁)」の創設を提案している。これは、サンパウロ市の「スマート・サンパ」やサンパウロ州政府の「ムラーリャ・パウリスタ(サンパウロの防壁)」といった、犯罪データベースと連携した都市防御システムを参考にしたものだ。計画では、全国の公共空間、港湾、空港に100万台以上の新たなカメラを設置する。これにより、逃亡者の特定や犯罪防止を図るとしている。さらに、州・市と協定やコンソーシアムを結び、情報分析、武装勢力が支配する地域の奪還と公共政策の整備、最新技術、最新鋭の武器、警察官の待遇改善に投資することも提案している。<国境警備>ボウソナーロ氏は、陸軍・海軍・空軍の軍人で構成されるエリート部隊「国家国境システム」の創設を提案している。部隊は「戦争用の武器」、情報分析、技術を備え、国境地帯、港湾、空港でライフルや麻薬の流入を阻止することを目指す。ルーラ氏は、アマゾン法域での治安活動を強化する方針を掲げている。これは州・市、そしてアマゾン協力条約機構(OTCA)加盟国との協力によるものだ。また、アマゾン国境に軍を常駐させ、航空・水上パトロールや警察情報活動を維持することも提案している。<刑事政策>ルーラ氏は、戦略的な刑務所施設の近代化、設備強化、機能強化によって刑務所制度を強化する方針を示す。目的は、刑務所環境の管理に技術的な解決策を優先し、通信遮断システム、監視、違法通信の検知などを導入することにある。提案には、刑務所職員の継続的な訓練、運用プロトコルの改善も含まれる。また、連邦刑務所制度の運用能力を拡大し、犯罪組織のリーダーを隔離し、危険度の高い受刑者の移送に関する全国的なプロトコルを導入することも計画されている。さらに、「ブラジル組織犯罪対策プログラム」を通じて、連邦・州・連邦直轄区の刑務所管理機関が情報交換を行うための常設拠点として、「国家刑事情報センター」を創設することも提案している。一方、ボウソナーロ候補は、刑事責任年齢を18歳から16歳に引き下げることを支持し、14歳以上で重大犯罪(強姦、麻薬取引、拷問、殺人)を犯した者を処罰することを主張する。さらに、国内に5つの新たな最高警備刑務所を建設し、連邦刑務所の数を倍増させる計画も掲げる。同候補はこの連邦刑務所群を「トレヴァ(闇)」と名付け、「市民の恐怖を取り除き、犯罪者に恐怖を与える」と述べている。また、州政府との協力により、州の刑務所不足を解消するため、50万の新たな収容枠を設ける計画も示している。その他の提案として、受刑者の家族への支援を停止し、その資金を被害者家族に充てること、凶悪犯罪に対する刑期の進行(刑期短縮制度)を廃止することなどが挙げられる。<家庭内暴力・女性殺害(フェミサイド)>ボウソナーロ氏は、保護命令が出ている女性への加害者を電子足輪で監視することを提案している。また、女性への暴力や殺害を行った者に対し、刑期を全うさせるよう法を厳格化する方針も示す。さらに、人工知能を活用したプラットフォーム「ClarIA」を創設し、女性が24時間体制で通報、保護命令の申請、相談、支援を受けられるようにする計画もある。各通報に対し、脅威レベルに応じた対応を行う全国的なリスク評価システムの導入も提案されている。暴力被害女性のための支援施設の拡充も計画されている。また、通報窓口の近代化と統合も提案されており、「Ligue 180」、オンライン警察署、緊急ボタン、監視センターを一つの迅速対応プラットフォームにまとめる構想が示されている。ルーラ氏は、女性保護ネットワークの拡充を掲げ、30の「ブラジル女性の家」、15の「女性支援センター」の整備を完了させる計画を示す。緊急保護命令の発出を迅速化するため、「統合女性安全センター」の政策を拡大し、州に加害者監視用のキットを配布する方針もある。さらに、女性被害者への対応を向上させるため、治安機関の訓練強化も進める。同候補は、女性の経済的自立を確保しつつ、男性優位主義(マッシズモ)、性差別、女性殺害(フェミサイド)と闘うことを掲げる。また、暴力被害女性・少女のために、治安機関、司法機関、病院、SUS(国民保健システム)に設置される「リラの部屋(Salas Lilás)」の拡充も計画されている。これらは、機密性を保ちつつ専門的な支援を行うための人間的な空間だ。<治安への投資>ルーラ氏の政府計画では、社会インフラ投資のための国家基金(FIIS)から100億レアルを州・市に配分し、装備やインフラへの投資を行うことが示されている。一方、ボウソナーロ氏は、任期中に連邦政府の治安投資を倍増させる意向を示しているが、財源については明示していない。<携帯電話の窃盗・強盗>ボウソナーロ候補は、携帯電話の窃盗・強盗、盗品の転売に対する初期刑を4倍にし、恩典を認めないことを提案している。携帯電話は単なる機器ではなく、写真、書類、銀行アクセスなどの個人情報を保存する「データの保管庫」であり、仕事道具でもあるためだ。また、同候補は、こうした窃盗で命を落とすブラジル人が多いと指摘する。ルーラ氏は、携帯電話の迅速なブロックを可能にする「セルラー・セグーロ」プログラムの拡大、購入前に端末の制限の有無を確認できる「全国携帯端末制限データベース」の拡充を提案する。また、盗品の受け取りネットワークへの対処を強化する方針も示す。<その他の提案>ルーラ氏は、武器・弾薬の管理政策を維持し、追跡システムを改善することを提案している。また、金融犯罪やサイバー犯罪への予防・質の高い取締りを強化し、児童・青少年の性的搾取、女性やLGBTQIAP+への暴力、人種差別、ヘイトクライム、電子銀行詐欺への対処を優先する方針も示す。ボウソナーロ氏は、国会と協力して、女性や子どもへの性犯罪者に対する「化学的去勢」の導入を進める提案を掲げる。これは性犯罪で有罪となった者に適用され、テストステロンの生成を抑制する薬剤の投与によって一時的に効果を発揮するものだ。(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)

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