ロシア連邦保安庁(FSB)は10月13日、サハリン駐在の北海道新聞記者をスパイ容疑で逮捕したと発表した。なぜ逮捕はこのタイミングだったのか。拓殖大学客員教授の名越健郎さんは「10月に入り、日本は高市政権初の対露制裁を発動した。逮捕にはその報復に加え、ほかにも狙いがありそうだ」という――。■高市政権初の対露制裁への報復か 逮捕された北海道新聞の記者はモスクワに移送され、同地の裁判所は2カ月間の勾留を認めた。事件は長期化し、日露間では前例のない事態に発展しそうだ。 プーチン政権はトランプ米政権の懐柔や中露関係の強化で勢いづき、中国と連携した対日強硬路線を強める。今後はロシアの「対日ハイブリッド攻撃」に警戒が必要だ。 ロシアがこの時期に記者逮捕に踏み切った真意は不透明だが、背景にはいくつかの要因が考えられる。 第一に、日本政府が10月2日付で対露経済制裁を発動したことへの報復がありそうだ。 外務省の発表によると、日本政府は同日、主要国と歩調を合わせ、ロシアの33団体・9個人の資産凍結に加え、ロシア産原油を運んで制裁逃れを助けているとされる、いわゆる「影の船団」35隻へのサービス提供などを許可制とした。高市早苗政権下で初の対露制裁となった。 ロシア外務省のザハロワ報道官は5日、この制裁を「思慮に欠ける」と批判し、主に日本が関心を持つ分野で相応の対抗措置を取ると警告していた。■ロシア側が流した真偽不明の情報 記者逮捕の背景の第二として、ドイツへの身柄移送に対する報復が考えられる。日本の捜査当局は5月、ドイツの請求を受け、ランサムウェア集団「キリン」の中心メンバーとされるロシア国籍の男を大阪で拘束し、10月にドイツへ引き渡した。道新記者の逮捕はその直後で、ロシア情報機関が報復を図った可能性がロシア独立系メディアで指摘されている。 ただ、FSBは逮捕から移送までの経緯を約4分の動画にまとめて公表するなど、周到に準備していた形跡がある。組織的な対日圧力の一環との見方もできる。 10月19日は日本と旧ソ連が国交を回復した1956年の日ソ共同宣言調印70周年だが、ロシアはそれを無視して対日強硬外交に踏み切った。 ロシアのメディアも日本人記者逮捕を大々的に報道し、FSB作成の動画を拡散している。 政府系のNTVテレビは、「この日本人記者は極東の軍事施設に関する情報を収集したが、機密情報を日本の情報機関に渡す前に拘束された」「この記者は拘束前、観光客を装って国後島を訪れ、記者とは程遠い行動を取っていた」などと真偽不明の情報を報じた。 同テレビはFSB捜査官の話として、「記者は日本の情報機関の指示に基づき、千島列島で動員された兵士や志願兵の数に関する情報を収集し、同機関に渡そうとした」としている。 タス通信は「これは初めての事例ではなく、同様のケースがつい最近も発生している。われわれは記者活動を隠れ蓑にした違法性、破壊性を定期的に指摘してきた」とするザハロワ外務省報道官の発言を伝えた。