結成30周年記念アルバム『94-Now: Collaborations』を12月13日(金)にリリースしたエイジアン・ダブ・ファウンデーション(Asian Dub Foundation)が、約11年ぶりのジャパン・ツアーとして1月22日に大阪・BANANA HALL公演、23日に東京・WWWX公演を開催しました。そのうち、東京公演のライヴ・レポートが到着。あわせて当日のプレイリストも公開されています。 また、大阪・東京ともに会場では即完売のTシャツ&パーカーが1月24日(金)よりBeatinkにてオンライン販売がスタートしています。 [ライヴ・レポート] 昨年12月に結成30周年記念アルバム『94-Now: Collaborations』をリリースしたエイジアン・ダブ・ファウンデイション(以下、ADF)による約11年ぶりの来日ツアーが開催。レベル・ミュージックの旗手として世界中で愛されている彼らは、久々の東京のステージで一体何を見せたのだろうか。 開場から30分ほど経過した頃合いで、サポートDJの大石始が「エイジアン・ダブ」をテーマにしたという重厚かつ華やかなセットを披露するWWWXに足を踏み入れると、ソールドアウト公演とあってすでにフロアはADFのパフォーマンスを楽しみに待つ人々でほとんど埋め尽くされている。それから1時間ほどDJに揺られていると、SEとして「Realignment」が鳴り響き、いよいよADFの登場だ。 ギター、ベース、ドラムにフルート/ビートボックスを担当するネイザン“フルートボックス”リーを加えた4人の楽器隊によって、インスト曲「MindLock」で激しくライブの幕開けを宣言。さらにアクターヴェイター(Vo.)、ゲットー・プリースト(Vo.)が加わり「The Signal And The Noise」、「Can't Pay Won't Pay」とミクスチャー・サウンドを叩きつけると、「未来を奪え(取り戻せ)」というメッセージとともに社会を支配するシステムを糾弾する「Stealing The Future」へ。ジャングル/ドラムンベース的な高速ブレイク・ビーツでフロアをさらなる熱狂に導きつつ、ADFは持ち前の強力なレベル・ミュージックを鳴らしてみせる。 さらに「Zig Zag Nation」を演奏後、ゲットー・プリーストが「ある人種が他の人種より優れているなんて考えは問題だ」とMCで語り「Access Denied」でしっとりとダブ・サウンドを響かせると、アクターヴェイターのMCへ。正確な記憶ではないかもしれないし、意訳で恐縮だが、MCの一部をここに記しておく。 「次の曲をガザ、パレスチナ、その周辺の人々に捧げる。俺たちは人々が人質のように扱われることに同意しない。俺たちは罪のない人々、女性、子どもたちが爆撃され、自分たちの土地から追い出されることに同意しない。人類は、今日ここに集まってくれたみんなのように楽しむ自由があり、俺にもここにいる自由があり、パレスチナの人々をはじめ世界中の人々についてみんなに話す自由がある。ガザ、パレスチナ、その周辺の人々にも楽しむ自由を享受すべきだ。人間は違ってみえるかもしれないけど、それは問題じゃない。君たちも最前線(Flontline)にいるんだ」 そうしてなだれ込んだ「Flontline」の中では「Free Palestine!」のコール&レスポンスが交わされる。ADFは30年以上の間変わらずにレベル・ミュージックを鳴らし続け、常に世界の問題に意識的で、楽しむことと社会問題を切り離さずに向き合ってきた。そう確信した時間に他ならない、個人的にハイライトと呼べる瞬間である。 ライブも後半に差し掛かり、ADFはダビーな「La Haine」、観客を巻き込んで盛り上がる「Fly Over」をプレイ。その後ステージには一人、ネイザン“フルートボックス”リーが残り、スポットライトを独占しソロで“フルートボックス”へ。文字通りフルートの演奏とヒューマンビートボックスを掛け合わせたものなのだが、これがまた凄まじい迫力。演奏面ではこの夜のハイライトと言っても過言ではないだろう。 「Stand Up」「Charge」を続け、クラシックと自ら呼ぶ「Naxalite」を披露。次の「Oil」で本編を締めくくると、インスト曲や代表曲の一つである「Fortress Europe」を含む4曲をプレイする贅沢なアンコールへ。しかし観客はそれでもまだ足りないとダブル・アンコールを煽る拍手を送り続け、ADFは再びステージへと現れた。「昨日の大阪ではやっていないし、やる予定じゃなかったんだけど」と前置きし、差別的な暴力への正当防衛が認められず逮捕されたサトパル・ラムの解放を訴える「Free Satpal Ram」で大団円。最後の1曲まで、彼らは激しく重厚で楽しいボーダレスなサウンドで、どれだけ世界が右傾化し、差別や暴力が横行してもくじけることのない、レベル・ミュージックの存在意義を見せつけたのだった。 Texy by 高久大輝 Photo by Kazma Kobayashi