「塀なんていらない」 日本一開放的な少年院、更生見守る地域の目

北アルプスのふもと、長野県安曇野市に日本一開放的と呼ばれる少年院「有明高原寮」がある。塀や鉄格子のない施設では、詐欺や傷害などの罪を犯した少年たちが約半年間を過ごす。 朝、走る少年に手を振る女性の姿があった。「頑張る姿を見ると、元気をもらえるんです」。自宅の庭からフェンス越しに臨む寮のグラウンド。点呼が聞こえたら外に出るのが日課だ。 塀のない寮は、地域との関わりを大切に、1949年の創立以降、地元・宮城地区と合同して納涼祭や運動会などの行事を開催している。昨年8月に開催された納涼祭。盆踊りで太鼓をたたく少年(19)は住民と顔を合わせたあと照れ笑いを浮かべた。 練習と猛暑の中の設営を経て迎えた当日。「太鼓かっこよかったよ」と、自分の過去とは関係なく、住民がかけてくれた言葉がうれしかった。その日の夜、日記に「優しく声をかけてくれて、泣きそうになった。これほど達成感や喜びを感じたのは初めて」と、思いをつづった。 少年は過去に逮捕監禁容疑で逮捕され、保護観察処分中に大麻所持容疑で再び逮捕された。幼少期に母から虐待を受け、父は自ら命を絶った。「一緒にいられるなら、悪い人でもよかった」と、人のぬくもりを求めて暴力団とも関わりを持った。 祭りに参加した住民の内山範夫さん(72)は、「人間はひとりでは生きていけない。外に出ても人に頼って生きていけばいいと知って欲しい」と話し、言葉だけではなく一緒に行事を体験する中で温かい目で見てくれる人がいると実感して欲しいと考えている。 住民らは寮を「少年院というより地域の一部」と話す。関係性を表す象徴的な出来事がある。05年秋に起きた少年の脱走事故をきっかけに寮から塀を作る案が出たが、住民から「そんなものはいらない」と声が上がった。寮は少年たちの生活ストレスの把握に、より力を入れて脱走したいと思う原因へ目を向けるようにした。以来、事故は起きていない。 坂田真朗寮長は、退院後の少年が薬物の誘いや人間関係のつまずきで再び犯罪に手を染めるケースがあると話す。そんな中、実社会に近い環境で寮以外の人とのかかわりを持ち、感情コントロールを促す施設も大切だと感じる。「少年たちの帰る先に塀はないし、外から鍵もかからない。心の鍵は自分でかけるしかないから」(写真・文 有元愛美子)

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