米ロが収監者の身柄交換 トランプ大統領はウクライナ戦争終結への「重要な一歩」と

ロシアで収監されていたアメリカ人教師マーク・フォーゲル氏(63)が解放され、11日深夜、米首都ワシントン郊外のアンドリューズ空軍基地に到着した。これと引き換えに、米当局は12日、マネーロンダリング(資金洗浄)の罪でアメリカの刑務所に収監してきたロシア国籍の人物を解放すると明らかにした。これとは別に、ホワイトハウスは12日、ベラルーシがアメリカ人を含む3人の拘束者を解放したと発表した。 フォーゲル氏は帰国後、ホワイトハウスを訪れ、ドナルド・トランプ大統領に迎えられた。トランプ大統領は、「彼はとても元気そうだ」と述べた。 また、別の収監者が12日に解放される予定だとしたが、名前は明らかにしなかった。 ペンシルベヴェニア州ピッツバーグ出身のフォーゲル氏は、モスクワのアングロ・アメリカン・スクールで教師として働いていた。以前は、ロシアの米大使館に外交官として勤務していた。 フォーゲル氏は2021年、空港で大麻の不法所持で逮捕された。アメリカで処方された少量の医療用マリファナを所持していたとして起訴され、14年の実刑判決を言い渡された。 フォーゲル氏は収監中、他の収監者に英語を教えていたと報じられている。 トランプ大統領は記者団に対し、この解放がロシアからの「誠意の表れ」であり、ロシアのウクライナでの戦争を終わらせるための「重要な一歩」になる可能性があると述べた。 一方、ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は12日、こうした合意は国同士の信頼を築くものだが、関係における「転換点」になる可能性は低いと述べた。 また、交換で解放されるロシア人の名前は、帰国するまで明かさないとした。 しかし米当局は、この収監者が、仮想通貨ビットコインを使った数十億ドルの資金洗浄に関連した容疑で2017年に逮捕されたアレクサンドル・ヴィニク氏だと認めた。 ロシア国籍のヴィニク氏は、暗号通貨取引所「BTC-e」を運営していた。米当局は、ヴィニク氏がこの取引所を通じて40億ドル(約6160億円)もの資金洗浄に関与したと判断。ヴィニク氏はギリシャで逮捕され、アメリカに引き渡された。 ヴィニク氏は昨年5月に罪状を認めており、判決では最長20年の実刑判決を受ける可能性があった。 米司法省によると、BTC-eは世界中のサイバー犯罪者によって、ハッキングやランサムウェア攻撃、個人情報の窃盗、汚職、麻薬販売といった犯罪による収益の送金、資金洗浄、保管などに使用されていたという。 フォーゲル氏と共にロシアから帰国したスティーヴ・ウィトコフ中東特使は、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子がこの身柄交換に「重要な役割」を果たし、合意の「応援者」だったと明かした。 「皇太子は舞台裏で励まし、推進し、適切な結果を求めていた」、「本当に助けてくれた」とウィトコフ氏は述べた。 交渉に詳しい情報筋はロイター通信に対し、サルマン皇太子に加え、ロシアの政府系ファンドの責任者であるキリル・ドミトリエフ氏が関与していたことを認めている。 ■ウクライナ情勢に影響あるか トランプ大統領は昨年の大統領選で、自分が就任したあかつきにはウクライナでの戦争を24時間以内に終わらせると約束していた。このところ、この問題に深く関与し始めており、フォーゲル氏の解放についても、戦争をめぐる交渉に結び付けて語った。 「我々はロシアから非常に良い待遇を受けた」 「実際、これが戦争を終わらせ、何百万もの人々が殺されるのを止めるための関係の始まりになることを望んでいる」 また、スコット・ベッセント財務長官が今週後半にウクライナを訪問すると発表した。 10日のFOXニュースのインタビューでは、「ウクライナが取引をするかもしれないし、しないかもしれない。いつかロシアになるかもしれないし、ならないかもしれない」と述べていた。 12日には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と「長い時間、非常に生産的な」電話協議を行い、ウクライナでの戦争を終結させるための交渉を開始することで合意したと述べた。 マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は、フォーゲル氏の解放を「ウクライナの残酷で恐ろしい戦争を終わらせるために正しい方向に進んでいる兆候」だとしたが、詳細は明かさなかった。 一方、マルコ・ルビオ米国務長官は、米ケーブル放送「ニューズネーション」に対し、取引でフォーゲル氏の解放を得られたのは「良い兆候」だとしながらも、これをウクライナ戦争と「結びつける」べきではないと警告した。 ■バイデン前政権に「裏切られた」と家族 フォーゲル氏の弁護団は、交渉におけるトランプ大統領の役割に感謝し、ジョー・バイデン前政権の「官僚的な無策」を批判した。 BBCがアメリカで提携するCBSに送られた弁護団の声明には、「トランプ大統領は数週間でマークの解放を実現し、マークを帰国させるために断固として行動した」と記されている。 フォーゲル氏は2022年に刑期が始まったが、2024年12月までアメリカ政府によって不当拘束と認定されなかった。家族はバイデン前大統領にも解放を訴えていたが、フォーゲル氏は2022年と2024年の米ロの身柄交換に含まれなかった。 米女子バスケットボール選手のブリトニー・グライナー氏は、2022年にロシアで大麻所持に似た容疑で逮捕され、10カ月後にロシアの武器商人ヴィクトル・ブート氏との交換で解放された。 さらにバイデン政権は昨年8月、ロシアと西側間での冷戦以来最大の身柄交換の一環として、さらに3人のアメリカ人の釈放を確保した。この時は、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のエヴァン・ガーシュコヴィッチ記者と、元米海兵隊員ポール・ウィラン氏、アメリカ政府が出資するラジオ自由ヨーロッパのアルス・クルマシェワ記者が解放された。 フォーゲル氏の女きょうだいのアン氏は、フォーゲル氏が当時の身柄交換に含まれていないことを知ったとき、「裏切られた」と感じたとBBCに語った。バイデン大統領は当時、この取引を「外交の偉業」と称賛していた。 現在、少なくとも10人のアメリカ人がロシアの刑務所に収監されている。その中には、ガールフレンドに会うためにウラジオストクに飛んだ後、彼女から盗みを働いたとして告発された陸軍のゴードン・ブラック軍曹や、子供の頃にロシアから養子として引き取られ、英語教師として働いていた際に薬物犯罪で有罪判決を受けたロバート・ウッドランド氏が含まれている。 ■ベラルーシもアメリカ人を解放 ホワイトハウスは12日、政府高官による交渉の結果、ベラルーシが3人の拘束者を解放したと発表した。 人質問題担当のアメリカ特使アダム・ボーラー氏は米CNNのインタビューで、3人のうち1人はアメリカ人だと述べた。また、ベラルーシからは先週、もう1人の拘束者が解放されており、その人物は現在、米テキサス州にいると明らかにした。 ベラルーシはロシアの強固な同盟国だが、こうした取引がアメリカとロシアの捕虜交換と関連しているかは不明。 ボーラー氏は、アメリカは「取引」を実現したが、ベラルーシは見返りとして何も受け取っていないと述べた。また、トランプ大統領が交渉に「深く関与」していたと付け加えた。 ボーラー氏は記者団に対し、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領がトランプ大統領に「取り入る」ために解放に同意したと語った。そのうえで、ヴェネズエラ、イラン、パレスチナ・ガザ地区の指導者たちに対し、拘束しているとされるアメリカ人の解放を呼びかけた。 (英語記事 Kremlin says Russian citizen released in US after Trump greets freed teacher/US releases Russian Bitcoin fraud suspect as Belarus frees American)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加