詐欺「だまされたふり」で逮捕 協力の男性が一部始終語る 「親子で会話しておくことが大事」/兵庫・丹波篠山市

昨年8月に発生した特殊詐欺未遂事件で、犯人からの電話にだまされたふりをして逮捕に協力した兵庫県丹波篠山市内の男性(80)が、丹波新聞社のインタビューに応じた。男性の息子を装い、「株購入に会社の金を使ったのでお金が必要」などと巧みな話術でだまそうとする手口。男性は、「最初の話では信用してしまった。ほんまにうまい」と驚き、逮捕の際に相対した犯人については、「いたって普通の人。あれ以来、まちで出会う人が、『もしかしたら悪い人では』と疑心暗鬼になるくらい」と話す。 8月4日午後9時ごろ、自宅の固定電話が鳴った。出ると男性の長男を名乗る。ガラガラ声の男は、「喉の調子が悪くて、病院に行ったら精密検査をした方が良いと言われた。明日、紹介された神戸市の病院を受診する。受け付けを済ませたら午前9時半ごろにまた連絡する」と告げた。お金の話は一切なかった。 長男は同じ市内で暮らしており、その日の朝も顔を合わせていた。「朝はそんな声してへんかったけどなあ」。妻とそう話したが、それほど違和感はなかったという。 翌朝、男性は仕事に出かけたため、男が病院の受付を終えると言っていた時間に、長男に電話をかけた。「病院、どうやった?」。ここで電話の主が長男でないことが判明。男性はすぐに警察に向かった。 その頃、自宅にいた妻のもとに再び電話があった。「受付が終わったので、今から診察。終わったら電話する」と言う。後に電話がかかってきたが、うまくいきそうにないと判断したのか、電話は切られた。 「大事な息子の名前を犯罪に使おうとした」と憤慨した男性。「次に電話があったら、絶対捕まえてやろう」と思っていたという。その機会はわずか17日後にやってきた。 8月21日午後7時ごろ、またも電話が鳴る。今度は男性の次男の名をかたったが、前回と同じ声だった。内容も前回と同じで、明日、病院へ行くという。今度は隣町にある県立病院に行くと言ってきた。「来た」―。男性はだまされたふりをして電話を切り、すぐに警察に電話したところ、逮捕への協力要請があった。 翌朝、犯人からの電話を待つ。きっちり午前9時半に電話が鳴った。男性は話を合わせ、何度か電話でやり取り。途中の電話の内容が巧妙だ。 「診察の結果は何ともなかった。久しぶりに実家に帰ろうと思う。お母さんのご飯が食べたいわ」―。男性は、「うまいなあ。これだけ芝居ができるなら、芸能界にでも行けばいいのに」と思いながら相づちを打ったという。 次の電話からお金の話が出てくる。 「実家に帰ろうと思っていたが、帰れなくなった。同僚が株で失敗して損をした。会社の金に手を出していて、実は自分も関わっている。これがばれて、上司にすぐ会社に戻ってこいと言われた」 そして、次の電話で、「自分は訴えられることはなくなった」と安心させた上で、「ただ、弁護士に費用を払わないといけない。500万円貸してもらえないか」と相談してきた。男性は「200万円なら」と言い、「金融機関にお金をおろしに行くので30分後に電話する」と答えた。 この間、犯人グループからの牽制が入る。まず、警察署員を名乗る別の男から電話があり、「〇〇さんがそちらに行っていますか?」。通報していないかの確認とみられ、少しでも対応を誤れば、そこで逃げられる瀬戸際だった。 実際に金融機関まで行き、お金を用意したふりをして、20分後に電話したところ、「30分と言っていたのに、なぜこんなに早いのか」。男性も、「顔なじみやから早くお金を出してくれたで」などと、負けじと巧みな話術で返し、相手を信用させることに成功した。 その後、次男をかたる男から、「弁護士の代理がお金を受け取りに近くまで行っているが、家が分からないと言うので迎えに行ってほしい」と、代理の名前や服装、背格好などを教えられた。外に出ると、いたって普通の男がいた。 自宅に招き入れ、お金が入った封筒を渡したところで付近に隠れていた警察が犯人を詐欺未遂容疑で逮捕。男性は、「目の前で犯人に手錠をかけ、確保した時間を読み上げていた。刑事ドラマでしか見たことがない場面だった」と振り返る。 犯人は住所不定無職の43歳の男。逮捕後の調べで、市内の別の女性(74)から現金450万円をだまし取ったとして再逮捕されている。 篠山署によると、男はお金を受け取る「受け子」で、電話をかける担当は別にいるなど組織的な犯罪。ただ、受け子に他の犯人の情報は伝えられておらず、“芋づる式に組織を検挙”には至っていない。 逮捕までの一部始終を垣間見た男性は、「犯人が悪いのは当然」とした上で、「1年も2年も話していないと、子どもの声も分からなくなる。最近は連絡もメールやLINE(無料通信アプリ)が多いそう。だまされないためにも、親子できちんと会話をしておいた方が良い」と話しながら、事件後に作った標語を記者に見せてくれた。 「ライン(メール)やめ 子供と声で さぎ防止」 県内、また丹波地域でも特殊詐欺被害が相次いでいる。同署によると、昨年、丹波篠山市内では2件の詐欺事件があり、1400万円の被害があった。この状況の中で犯人逮捕につながった男性の協力に、「勇気を出して協力してくださった。非常にありがたい」と感謝。未然防止へ、「犯人はあの手この手で術中にはめてくる。少しでも『おかしいな』と感じた場合は、すぐ警察に相談してほしい」と呼びかけている。

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