第1次政権時に史上初の米朝首脳会談を実現させたトランプ大統領。しかし、現在は第1次政権時とは取り巻く環境が大きく異なる。 ◇板門店会談を最後に直接接触は途絶える 第1次トランプ政権の北朝鮮政策は、型破りの取引を好む「トランプ外交」を象徴する一大プロジェクトだった。2017年1月に就任したトランプ大統領は、オバマ政権の「戦略的忍耐」という名の消極策を転換し、北朝鮮への武力行使も辞さないとする強硬姿勢を打ち出した。これに対し、北朝鮮側も初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射や6回目の核実験に踏み切り、11月のICBM発射後には「国家核武力の完成」を宣言した。緊張が高まる中、朝鮮半島有事のリスクが公然と論じられ、各国政府が自国民退避に備える動きも報じられた。 18年に入ると事態は一変する。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)国務委員長が元日の声明で開会が迫っていた韓国・平昌(ピョンチャン)での冬季オリンピックに代表団を送る方針を示したことで南北融和ムードが盛り上がり、南北首脳会談に向けた調整が進められた。この過程で米朝首脳接触に前向きな北朝鮮側の意向が韓国を通じて米国側に伝えられ、トランプ氏がこれに応じた。6月にシンガポールで開催された第1回米朝首脳会談で発出された共同声明では、米国側が北朝鮮に対する「安全の保証」に、北朝鮮側が「朝鮮半島の完全な非核化」にコミットすることが確認された。 しかし、その後の米朝協議は難航し、19年2月にベトナム・ハノイで開かれた第2回米朝首脳会談でも打開策は見いだせなかった。6月に南北軍事境界線上に位置する板門店(パンムンジョム)で行われた3回目の会談を最後に米朝首脳の直接接触は途絶え、結局トランプ政権は北朝鮮外交で具体的な成果を見ないまま退陣した。北朝鮮にとっても前例のない対米首脳外交は大きな賭けだったはずだが、経済制裁の緩和といった果実を得ることはできなかった。