小林薫、尾野真千子が出演するNHKの特集ドラマ『憶えのない殺人』がNHK BSで2月22日(土)夜9時にオンエアされる。2人の共演は2011年に放送された連続テレビ小説『カーネーション』以来だという。今作は認知症を患う元警官が殺人事件の犯人として疑われる中、真相を探ろうと奮闘する異色のヒューマン・ミステリー。“老い”や“介護”の問題にも踏み込んだ意欲作となっている。尾野真千子に直撃し、見所と意気込みを聞いた。(前後編の前編) ──小林薫さんと尾野真千子さんの共演というと、多くの人がNHKの連続テレビ小説『カーネーション』(2011年放送)を連想すると思います。 尾野 今回、『憶えのない殺人』というドラマをやろうと思ったのも実は小林薫さんがいたからなんです。もう一度、この人とちゃんと面と向かって芝居をしたいとずっと思っていたので。今回はお互いにあのときよりも年を重ねていましたし、なにかいろいろ感慨深かったですね。 ──ドラマ『憶えのない殺人』ですが、撮影現場の雰囲気はいかがでしたか? 尾野 楽しかったですよ。基本、一緒に撮影する共演者の人とはずっとしゃべっていました。「こんなしゃべりすぎちゃって大丈夫?」ってくらいに。本番前は楽しくしたいから、ついついおしゃべりしちゃうんですよ。今回は取り調べみたいな深刻なシーンも多いから、そういうところはちゃんと真面目にやったつもりです。 ──役者さんによっては、シリアスな場面を撮る前の段階から役に入り込むケースもありますよね。それこそ、おいそれと話しかけられないピリピリした雰囲気を出して。 尾野 私はどちらかというと、本番スタートしてから気持ちを切り替えるタイプかな。撮る前から緊張状態でいると、その集中力が長続きしないんですよ。なんだか疲れちゃって。たまにテストとか事前の段取りをしているときに入り込んじゃうときがあるんですけど、それをしちゃうと、ホント頭がおかしくなってくるんですよ。 ──そこまで入り込んじゃうものですか! 尾野 自分でも異常だと思いますよ。泣かなくていい芝居のときに、なんだかいろいろ降りてきちゃって、唐突に泣き始めたりとか……。なんかねぇ、大変なお仕事だなって思うことがありますよ。今回のドラマでも1回だけ全然泣かなくていいところですっごく悲しくなっちゃって、テストで泣いちゃいましたし。そういう自分がいるってこと自体、自分でもビックリするんですけど。 ──それはどのシーンですか? 尾野 一緒に仕事している若手刑事・稲岡(松澤匠)に「早く証拠集めなさいよッ!」って怒鳴る場面。 ──あぁ、ありましたね。 尾野 たしかに重い場面ではあるんだけど、なにも泣きながら言う必要はないじゃないですか。それもテスト段階で(苦笑)。なんていうのかな……いろいろ考えちゃうんですよ、背景を。今回のドラマでいうと、(主人公で犯人と疑われる)佐治の人生とか。考えなくてもいいことが頭の中でぐるぐる渦巻いていく。それで泣いちゃう。自分でもそんなふうにはなりたくないんですよ。 ──それもあって、先ほど尾野さんが言っていたように現場では極力明るく過ごすようにしているのでしょうか? 尾野 そういうことでしょうね。感情が溢れすぎちゃうと、芝居ができなくなるんですよ。芝居には余計な感情なので。入り込みすぎると、いらないことまでしてしまう。今やろうとしている芝居の中で必要ない要素は意識的に取り除かないとダメだって、自分でもどこかで気づいているんだと思う。