まず白状しておかなければならないことがある。『殺め家』(八木澤高明・著、高木瑞穂・編、鉄人社)の表紙を目にした時点で、若干の疑念を抱いてしまったことだ。 なにしろ帯には、「凶悪犯はどこで生まれ育ったのか? かつてここに怪物が棲んでいた。欲望と鬱積と狂気の42現場」と、なにやら刺激的な文言が並んでいる。そのため、読む前の段階で「もしや、事件やその現場のことを、必要以上に誇張しているのではないだろうか?」と勘ぐってしまったのだ。 著書『抗う練習』に書いたことがあるが、私はこの『殺め家』でも紹介されている「和歌山カレー事件」(本書での表記は「和歌山毒物カレー事件」)の被告人として起訴された林眞須美死刑囚の長男と交流を持っている。この事件については冤罪の可能性が指摘されているが、彼が誹謗中傷と戦っている姿を目にしていることもあり、つい敏感になってしまうのかもしれない。 だが実際に目を通してみた結果、それが考えすぎであることはすぐにわかった。読み進めてみたら、写真週刊誌カメラマンから転身したノンフィクション作家である著者の、事件取材に対するスタンスをはっきり確認できたからである。 ~~~ 取材する理由は、ただ単に自分自身が取り上げる犯罪者に興味が有るか無いかということに尽きる。(96ページより) ~~~ 当然ながらこれは、興味本位で騒ぎ立てようという意味ではない。むしろ逆だ。興味があるからこそ、ひとつひとつの事件を丁寧に調べ、実際に現場を歩き、人の話を聞くことによって、それらの背後にあるものを浮き立たせようとしているのだ。 その一例として、私のような立場にある人間は、やはり和歌山カレー事件についての記述を取り上げるべきだと思う。そこで、ここからはこの事件を中心に置いて話を進めさせていただく。