大阪地裁の裁判員裁判で9月、大阪府羽曳野市の路上で男性を刺殺したとして殺人罪に問われた男に、懲役16年の判決が言い渡された。直接証拠がなく、凶器すら見つかっていない事件。男は一貫して「やっていない」と無実を訴えていた。状況証拠を積み重ねた検察側に対し、地裁はその多くについて「不十分」と指摘。それでも有罪との結論を導いた根拠は、男の弁解と「センサーライト」との矛盾だった。 事件は平成30年2月17日夜に発生。韓国籍の崔喬可(さい・きょうか)さん=当時(64)=が駐車場に車を止め、近くの交際女性宅に向かう途中の路上で、背後から刃物で刺され殺害された。 ■裁判長、検察側立証ことごとく否定も… それから4年後。逮捕されたのは女性宅の隣に家族4人で住んでいた山本孝被告(49)だった。事件発生と同じ時間帯に外出していたことに加え、女性宅の植木鉢を巡って隣人トラブルに発展していたという「動機」もあり、当初から捜査線上に浮上していた。 裁判期日は判決までに19回に及んだ。そして迎えた9月27日の判決。状況証拠による検察側立証に対し、山田裕文裁判長の厳しい指摘が並んだ。 「検察官の主張は基本的な部分で大きく破綻(はたん)した」 「鑑定内容の信用性の大半が否定される」 「十分な捜査がされたかには疑問が残る」 現場住宅街の出入り口は限られ、防犯カメラなどに写らずに現場にはたどり着けない▽現場周辺に止まった2台の車のドライブレコーダーに写る犯人の体形や服装が被告と合致している▽崔さんには被告との間以外にトラブルがなかった-という検察側の主張がことごとく退けられたのだ。 ■焦点となった2度の点灯 だが結論は有罪。地裁が〝決定的な証拠〟としたのは、被告宅から見て袋小路の出入り口側に位置する女性宅のセンサーライトだった。 判決によると、現場周辺の2台の車のドラレコには、崔さんが駐車してから現場に向かうまでの約20分間に、犯人が計3回、被告宅がある方向から現れる様子が写っていた。うち2回は直前にライトが点灯。地裁は犯人の動きについて、駐車場を見渡せる袋小路突き当たりの被告宅付近で崔さんを監視し、その後現場に移動して殺害したと認定した。 一方で被告は裁判で当時の状況を次のように証言した。