【「表と裏」の法律知識】#271 日本の検察のトップである畝本直美検事総長が2月19日、検察幹部の会合で、任意での取り調べにおいても可視化(録音・録画)を試行することを発表しました。 これは大きな前進になると私は評価しています。刑事事件の捜査における被疑者の取り調べは、外部からの情報が一切遮断された密室で行われ、また基本的に弁護士の立ち会いが認められることはほとんどなく、被疑者はたった一人で取り調べに臨まなければなりません。 そのような状況で行われる取り調べは、時に長時間化したり、担当警察官・検察官による威圧的、侮辱的な発言を伴ったり、利益誘導が行われ、違法・不当なものになることがあります。そのような取り調べを受けた被疑者は精神的・身体的なダメージを受け、最終的に自身の意に沿わない供述をしてしまうというケースが少なくありません。 本来、被疑者・被告人には、黙秘権が保障されているのですから、このような黙秘権を侵害する取り調べは決して許されるべきではありません。 最近では、取り調べ中の検察官が、被疑者に対し、「ガキだよね」「お子ちゃま発想」「ウソつきやすい体質」と発言したことが、裁判所で違法と判断され、国に110万円の賠償を命ずる判決がなされました。また、2019年の参議院選挙での大規模買収事件で取り調べを受けた元市議会議員に対し、担当検察官が「不起訴を示唆し、供述を行うよう誘導した」ことについて、最高検が「不適切」な取り調べであったとする調査結果も報告されています。 このような不当・違法な取り調べを阻止するための一つの手段として、録音・録画などによる取り調べの可視化があります。最近改正された刑事訴訟法においては、裁判員裁判対象事件などで、逮捕・勾留された被疑者の取り調べのすべてを録画することが義務付けられています。もっとも、その対象事件は全体の数%にとどまり、取り調べの可視化が十分に進んでいるとは言えない状況でした。 今回の検察トップの発言は、その意味で、取り調べの可視化の範囲を大幅に拡大し得るものになりそうです。この取り組みが拡大・定着し、被疑者・被告人の黙秘権が当たり前に守られるようになることを祈るばかりです。 (髙橋裕樹/弁護士)