鈍麻する感覚、刺激求め常習万引 当事者が語るオーバードーズ 「睡眠薬15錠ボリボリ」

風邪薬などの市販薬や睡眠薬の過剰摂取(オーバードーズ、OD)に走る若者が後を絶たない。「気分転換」「いやなことを忘れたい」と精神や感覚への作用を求めて薬に手を出し、抜け出せなくなる。大阪では女子高生をODで死亡させたとして、自宅に連れ込んだ無職男(26)が逮捕される事件も。OD経験者はその依存性の強さと身体へのダメージに警鐘を鳴らす。 「常に脳が麻痺(まひ)し、正常な判断ができなくなる。まるでもう一人の自分がいるかのように行動していた」 睡眠薬のODを繰り返していた当時のことを、湯浅静香さん(44)=さいたま市=はそう振り返った。初めて口にしたのは18歳のとき。キャバクラ勤務を始め、昼夜逆転の生活で眠れない日が続いていた。 あくまで眠ることを目的に、はじめは定量の1錠だけ。だが次第に効かなくなり、1回の服用数が4~6錠に増えた。「もっと欲しい」。いつしか目的と手段が入れ替わり、薬そのものを求めるようになっていた。 恐ろしいのはその依存性だ。覚醒剤使用の経験もある湯浅さんは「覚醒剤と変わらない」と言い切る。ただ覚醒剤のような法禁物とは違い、入手が容易な睡眠薬では罪悪感を抱きにくい。摂取量は増える一方で「当時はその怖さが分かっていなかった」。 ODが常態化するにつれ、身体に異常が現れる。味覚が変化し、苦いはずの錠剤を甘く感じた。お菓子を食べる感覚で「15錠ほどの睡眠薬をボリボリとむさぼった」と話す。 脳の働きは鈍り、判断能力が低下した。記憶が寸断され、痛みを感じなくなって自傷行為を繰り返したことも。結婚生活にも張り合いを感じられず、常に鈍麻したような意識の中で、万引に刺激を見いだすようになる。その果てに窃盗で捕まり服役することになった。 刑務所で社会復帰した元受刑者の講話を聞いて感銘を受け、更生を誓った。ODから抜け出し出所後、薬物依存者やその家族を支援する「碧(あお)の森」を立ち上げ、代表として活動している。 ODを続けたせいで感覚が鈍り、自殺を図る若者も少なくない。ODが性被害に遭う入り口になったり、あるいは薬物犯罪に加担させられたりと、摂取とは別のリスクも潜んでいる。

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