救える機会は幾度となくあった。ストーカー被害を訴えていた女性(20)の遺体が川崎市内で見つかり、元交際相手の男の被告(28)が殺人罪などで起訴された事件。県警の検証結果からは「SOS」に対する感度の鈍さと、行方不明後も事態を深刻に受け止めない姿勢が浮かび上がった。 川崎臨港署が2人のトラブルを把握したのは昨年6月だった。「被告とけんかになり服を破られた」との通報を受け、女性に危害が及びかねない「人身安全関連事案」と判断。県警本部の専門部署と情報を共有し、同7月に交際の解消を確認して対応を終えた。 だが同9月、被告からの暴行があったとして被害届が出され、事態は次の局面に入る。以降はつきまとい被害の訴えもあり、署は被告に口頭で指導したり、上申書を提出させたりしたが、同11月に復縁を確認するなどし、本部の助言を仰がずに対応を終えた。この判断を背景に、署内に「トラブルはいったん収束・解決したという先入観が形成された」と指摘されている。 その後、署は女性から同12月に12日間で9回もの電話を受けたが、人身安全関連事案として扱わず、組織的な対応を取る機会を逸した。 象徴的なのは「被告が自宅の周りをうろついていた」という通報への対応だった。女性と面識のある署員は、話しぶりが落ち着いていたなどとしてアドバイスを伝えるにとどまり、記録すら残さなかった。報告を受けた上司も、2人が復縁と解消を繰り返していた経緯などを踏まえ、判断を追認したという。 1週間後には別の署員が女性と対面。「自転車を盗まれたので被告を逮捕してほしい」との要望を受けたが、被告の名前を聞き取らなかった上、過去の相談履歴を確認しなかったため、2人の間の度重なるトラブルを認識することすらできなかった。 県警は報告書で、一連の対応に携わった署員全員が危険性や切迫性を過小評価したと断定。組織的な対応を取っていれば「被害者の安全を確保できた可能性があった」と言及した。