東京都新宿区高田馬場4丁目の路上で11日午前9時50分ごろ、女性が男に刃物で首や胸を複数回刺され、死亡した。女性は東京都多摩市の職業不詳佐藤愛里さん(22)で、インターネットで動画の生配信中だったとみられる。佐藤さんはライブ配信者、通称「ライバー」として人気で、多くの視聴者が凶行の瞬間を目撃することになった。通報で駆けつけた警視庁の捜査員が、現場にいた栃木県小山市の職業不詳高野健一容疑者(42)を殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。同庁捜査1課は容疑を殺人に切り替えた。 「ギャーッ、助けて」。JR高田馬場駅から約300メートルの、そば店やコンビニがある路地に女性の叫び声が響いた。現場の向かいのビルで働く女性(45)は「悲鳴が聞こえて外に出たら男が女性の頭部を殴っているようだった。助けなきゃと思ったが近くにいた人が“刃物を持っている”と言って…」と声を震わせた。 高野容疑者は仰向けに倒れ、ぐったりした佐藤さんからスマートフォンを奪い、立ったまま顔などを撮影。現場にとどまり捜査員に抵抗もせず身柄を確保された。ネット上に犯行時とみられる映像が拡散された。 佐藤さんは刃渡り約13センチのサバイバルナイフで刺されたとみられている。警察が駆けつけた際、高野容疑者はナイフ2本を所持。血の付いた1本が足元にあり、もう1本はリュックに入っていた。 捜査1課によると、2021年に動画配信を通じ佐藤さんを知り、22年ごろから金を貸すようになったと供述している。「トラブルがあった。200万円を超える金を貸したが返ってこなかった」とし、昨年1月に栃木県警に相談。双方が金銭トラブルを巡り警察に相談していた。「殺そうとは思っていなかった」とも話している。 佐藤さんは動画配信アプリ「ふわっち」で中継していたとみられる。事前に、11日に「山手線徒歩1周」の生配信をすると予告し、視聴者の投げ銭に応じて「1駅ワープ」「駅前でダンス」などをするとしていた。高野容疑者は「予告を見て上京した。動画を見て場所の当たりをつけた」という趣旨の供述をしている。中継で住所表示板が映れば場所の特定もできる。事件後「危険ではないか」「生配信は要注意」との指摘も上がった。 ◇ふわっち 2015年にサービスが始まった動画ライブ配信アプリ。動画配信アプリの中ではユーザーの年齢層が高めと言われている。いわゆる「投げ銭」と言われる視聴者から配信者への課金の還元率が、ほかのアプリと比べ高めに設定されており“収益が望めるアプリ”として人気。視聴者数、配信者が視聴者から受け取ったアイテムの数(課金)などによってランキングが表示され、上位に入ると新規の視聴者獲得につながるシステムがある。 【ITジャーナリスト「親密になりすぎないことが対策」】 ITジャーナリストの三上洋氏は顔出し配信者の屋外での配信を規制するのは難しいと指摘する。「危険ではあるが、顔を出している配信者がリアルタイムの現在地を出さずに外配信するのは難しい」と屋外での生配信には一定のリスクがあるとした。取り得る対策としては「外配信の際には完全に場所が特定できない場所で行う」「外では録画をし、それを家など屋内で生配信する」ことなどを挙げた。その上で「配信者はファンから特別な関係だと誤解される可能性がある。なので親密になりすぎないことが一つの対策になってくる。配信のほかでは会ったり、相手に特別な関係だと思わせない工夫が必要になる」と注意喚起した。