「高額報酬」「即日払い」をうたい、犯罪に加担させる「闇バイト」。誘い文句につられて強盗未遂事件に加担した20代の男は、有罪判決からわずか9カ月後に窃盗に手を染めた。京都地裁で開かれた公判の傍聴や面会を通して浮かんだのは、ギャンブル依存がもとで犯罪から抜け出せなくなった若者の姿だった。 入り口は交流サイト(SNS)の求人広告だった。名古屋地裁の確定判決などによると、男は、X(旧ツイッター)で見つけた「すぐに稼げる」「ホワイトな仕事」とする広告に応募した。連絡は秘匿性の高いメッセージアプリに移った。2023年6月、何者かから細かな指示が飛んできた。 レンタカーを運転して移動し、道中でハンマーや手袋を購入した。指定場所に着くと、次は購入した道具を使って強盗を実行するよう命じられたという。 恐怖に駆られ、指定された場所に車を置いて逃げた。翌々日、指定場所近くの時計店に包丁を持った男が押し入った、とニュースで知った。数週間後、外出先で警察官に囲まれ、車や道具を提供した強盗未遂ほう助容疑で逮捕された。他に逮捕された押し入りの実行役らも全員、闇バイトで集められていた。自身が運転の報酬として手にしたのはわずか2万円だった。 ◇ 男は西日本の地方都市で育ち、運動が得意だった。全国高校駅伝にも出場。箱根駅伝を夢見て、大会常連の大学にスポーツ推薦で進学した。 だが、けがをして3年で競技をやめると、競馬やボートレース(競艇)にのめり込んだ。スマホで馬券や舟券を買い、大損しても「勝てば取り返せる」と気にしなかった。 就職後も月給の半分を賭け続けた。500万円に膨らんだ借金は母や祖父母が肩代わりし、その後は家族と疎遠になった。給料は入った瞬間にギャンブルに使うので生活費がない。日給の仕事を探した末に行き着いたのが闇バイトだった。 23年9月、名古屋地裁で保護観察が付いた執行猶予判決が言い渡された。しかし、依存からは抜け出せなかった。 今度は自分一人で、再就職先の同僚や交際相手から金品を盗み、賭け金や生活費にした。京都府警に逮捕され、昨年6〜8月に知人3人の家から計176点の財布や服を盗んだ窃盗の罪で起訴された。 京都地裁での被告人質問。「人を裏切って後ろめたさを感じても、またギャンブルをしたい気持ちが出てきた。依存症の回復施設をネットで探したこともあったが、自分は大丈夫だろうと思い、行くことはなかった」と述べた。 2月18日の判決を前に、男は拘置所で記者の面会に応じた。「陸上で走るのは苦しくても我慢できたのに、ギャンブルを我慢できないのが不思議なんです。やめる方法を考えたい」。勾留中の5カ月は賭け事への衝動はなかった。「でもスマホや金を手にしたらどうなるか、分からない」とつぶやいた。 2度目の判決は懲役1年6月の実刑だった。前の事件の執行猶予も取り消され刑期は4年。犯した罪の代償は大きかった。 ◇ ギャンブル依存症の人が闇バイトに加担するケースは少なくない。「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京都)が昨年12月、当事者家族681人に行ったアンケートでは、33・8%が「当事者に犯罪行為があった」と回答。うち13%にあたる30人が「犯罪行為は闇バイト」と答えた。 闇バイトの内容(複数回答)は「口座売買」が最多の23人で、「特殊詐欺の受け子・出し子」が8人、「携帯売買」が7人。「強盗」も2人いた。 田中紀子代表は「若い人はオンラインの賭博で急速に依存症になり、金を稼ぐ手段がないので犯罪に走ってしまう。家族が肩代わりして借金を返したとしても再びギャンブルをするリスクは変わらない」と指摘。「支援団体に相談し、自助グループや治療につなげてほしい」と呼びかける。同会の相談専用電話070(4501)9625。