1台のカメラを回し続け、編集なしのワンカットで撮影するという独特の手法で制作されたのが、動画配信サービスのネットフリックスで公開中のドラマ「アドレセンス」。各60分ほどの全4話が全てカット割りなしで構成されている。予備知識を持たずに見始めたので、最初はケタ外れの長回しに気づいていなかった。 物語は、完全武装した警察部隊がある民家に突入する場面から始まる。住んでいるのはギャングでもなんでもなくて、どこにでもいそうな4人家族。同級生の少女を殺した容疑で逮捕されるのは13歳の長男、ジェイミーだ。父親は「何かの間違いだ」と抗議するが受け入れられない。 ジェイミーはそのままパトカーで警察署に連行される。動揺を隠せない少年と刑事が車中で言葉を交わすあたりで、やっとワンカット撮影なのだと認識した。いつまでも映像が途切れない。 収録しているカメラの前で、入れ代わり立ち代わり演技が続くのは舞台演劇っぽい。失敗できない緊張感や描写の制約もあるはずだけど、逆に「どんな新しい表現ができるんだろう」という興味も湧いてくる。 インパクトがあったのは第2話終盤の場面。刑事が立ち去って、別の人物が画面を横切る。その背中を追うように動きはじめたカメラが突然、ふわっと宙に浮く。そのまま空中を移動して、花が供えられた少女の殺害現場へ-。 今どきドローンを使った俯瞰映像そのものは珍しくないが、切れ目のないワンシーンの一部だと、どうやって撮ったのか不思議に感じる。見終えてすぐ、もう一度見返したぐらいだ。 本作は、そんな撮影技法だけでなく、未成年者の犯罪というテーマも強い印象を残す。 逮捕されたジェイミーは「僕は何もしていない」と無実を訴える。父親もそれを信じる。見ている側もつい同情してしまう。冤罪で逮捕なんてかわいそうだ、と。しかし、ある決定的な証拠が父親(と視聴者)につきつけられる。背筋が凍るような瞬間とは、まさにこのこと。 被害者の少女がネット上でいじめを主導していたことが判明するとか、犯罪に振り回される人々のやるせなさとか、苦味が後を引く大人のサスペンス。(ライター 篠原知存)