サラ・レインズフォード東欧特派員 ベラルーシの反体制派指導者スヴェトラーナ・チハノフスカヤ氏の夫で、同国で拘束されていたセルゲイ・チハノフスキー氏が21日、突然釈放された。他にも政治犯13人が釈放され、なかには日本人も含まれているという。 自身も反体制活動家として知られるチハノフスキー氏は、5年間の拘束を経てリトアニアに移送され、首都ヴィリニュスで亡命中のチハノフスカヤ氏と再会した。 アメリカのキース・ケロッグ特使はこの日、ベラルーシの首都ミンスクを訪れ、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領と会談した。釈放は、この直後に行われたとされている。ルカシェンコ氏は1994年以来、ベラルーシを権威主義的に支配している。 リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相はソーシャルメディアで声明を発表し、14人の政治犯が釈放され、現在リトアニアで支援を受けていると明らかにした。 チハノフスカヤ氏の事務所によると、釈放された14人のうち5人はベラルーシ国籍。そのほかに日本、ポーランド、スウェーデンの国籍を持つ人物が含まれているという。 日本人2人の身元は明らかになっていない。共同通信によると、ベラルーシの独立メディアが報じた釈放者リストの中には、母親が日本人で、父親がベラルーシ人の日本人男性の名前がある。この男性は20年に反政権デモに参加して拘束され、懲役16年の判決を受けた。 また日本の複数報道によると、ベラルーシでは昨年7月、現地で日本語教師として働いていた日本人男性がスパイ容疑で拘束され、今年3月に禁錮7年の有罪判決を言い渡されたほか、12月にも旅行中の日本人男性が拘束されている。 チハノフスキー氏は反体制活動家として、かつてソーシャルメディアで多くの支持を集め、「ゴキブリを止めろ」と呼びかけていた。これは、1994年から実権を握るルカシェンコ大統領を指していたとされる。 抑圧的な政権によるリスクを顧みず、ビデオブロガー兼活動家として国内をめぐり、町の広場や村で市民と直接対話し、その声を発信していた。 チハノフスキー氏は2020年、同年夏の大統領選挙でルカシェンコ大統領に挑戦するための選挙運動を開始したが、直後に逮捕された。 その後、政治経験がなく無名だった妻チハノフスカヤ氏が夫に代わって大統領選に立候補した。 しかし、ルカシェンコ大統領が再び圧倒的勝利を宣言すると、チハノフスカヤ氏の支持者たちは街頭に繰り出し、ベラルーシ史上最大規模の抗議デモが発生した。 この抗議運動は容赦なく鎮圧され、チハノフスカヤ氏はリトアニアへの亡命を余儀なくされた。 なお、今回の釈放がベラルーシにおける政治的弾圧の終結を意味するわけではない。ルカシェンコ政権に反対したという理由だけで、今なお数百人が収監されている。 2020年の抗議活動後に収監された反体制派指導者の一人、マリア・コレスニコワ氏は、今回の釈放に含まれなかった。 BBCの取材に対し、コレスニコワ氏の家族は「今回は違った」と述べ、同氏が釈放対象に含まれていないと明らかにした。その上で、「大きな前進ではあるが、さらなる釈放のためには、より多くの努力と交渉が必要だ」と語った。 コレスニコワ氏は2020年に首都ミンスクで治安部隊に車で連れ去られ、隣国ウクライナに追放されそうになったが、国境地帯でパスポートを破って車の窓から脱出した。 2021年9月には、権力掌握を企てた罪、国家安全保障上の脅威となった罪、過激派思想を持っていた罪などで有罪となり、禁錮11年の判決を受けた。 同氏は当時、この裁判はいんちきだと批判。「私は何も後悔していないし、また同じことをすると思う」と語っていた。 ■ルカシェンコ大統領の思惑は 米シンクタンク「カーネギー・ロシア・ユーラシア・センター」に所属するアルチョム・シュライブマン氏は、ケロッグ特使との会談自体が、ルカシェンコ大統領にとって十分な見返りだったとの見方を示した。 シュライブマン氏は、「アメリカ側がケロッグ氏の訪問と引き換えに、チハノフスキー氏の釈放を重要な譲歩として求め、ルカシェンコ氏がそれに応じたようだ」と述べた。 ルカシェンコ大統領は長年にわたり西側諸国の政治家から孤立してきた。2020年と今年の再選はいずれも国際社会で正式に承認されておらず、ベラルーシは西側の制裁下に置かれている。 さらに、ベラルーシがロシアによるウクライナ全面侵攻を支援し、自国領内を通じてロシア軍の進軍やミサイル発射を許可したことで、欧米との関係は一層冷え込んだ。 シュライブマン氏は今回の階段について、「これはルカシェンコ氏にとって重要な外交的突破口だ。孤立状態から抜け出す助けになる」と指摘した。 また、「ルカシェンコ氏は、アメリカの高官と、戦争と平和について議論する機会を歓迎しているはずだ。ある意味で、これは双方にとっての『ウィン・ウィン』だ」とも述べた。 トランプ米政権が、ベラルーシへの制裁の一部解除を示唆しているかは明らかではない。ただし、ルカシェンコ氏がそれを狙っていることは確かだとみられている。 (英語記事 Belarus opposition leader's husband freed from prison)