拡大する修繕工事市場 工事知らぬ住民、費用は億円単位 不正も横行

首都圏のマンションの大規模修繕委員会に男2人が住民になりすまして参加し、住居侵入容疑で神奈川県警に逮捕された。2人は大阪府東大阪市の大規模修繕工事施工会社の従業員で、「会社の利益のためになるとも思った」と供述したという。 マンションの大規模修繕工事は、住民らでつくる管理組合が発注する。住民らは必ずしも工事に詳しくない一方で、工事費は高額だ。住民間の関係の薄さや組合運営への無関心などに業者がつけ込み、不正を働くことがあるとして、国土交通省が注意喚起し、公正取引委員会は業界を調査している。 ■費用、10億円を超えるケースも 国土交通省の調査によると、大規模修繕工事の約7割は12~15年周期で行われる。外壁の塗装などで、1回あたりの費用は約1.2億~約1.5億円。大型マンションの場合は10億円を超えることもある。 国交省の推計では、全国の分譲マンションの戸数は2023年末で約704万戸あり、1999年の約2倍になった。1戸あたりの修繕積立金の月額は約1.8倍の約1万3千円となった。矢野経済研究所は、「共用部修繕工事」の市場規模は30年に約8200億円となり、22年(約5700億円)の1.4倍になると予測する。 事件の舞台となったマンションでは、現在主流となっている「設計監理方式」で工事をする予定だった。この方式では一般的に、コンサルタント会社が工事を設計し、同一の条件を設定して施工会社を募り、管理組合が価格などから選定する。コンサルが選定の助言をすることがある。工事が始まると施工内容の確認も行う。 コンサルについて国交省は17年、「管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が指摘されています」として、管理組合向けに文書で注意喚起していた。 ■特定の工事業者の受注を工作するコンサルも 文書では設計監理方式について、透明な形で工事業者選びを進めるために有効とする一方で、不適切な事例を紹介した。コンサルが候補の施工会社5社のうち1社だけに特別な情報を伝えこの社が内定▽コンサルが自社にバックマージンを支払う工事業者が受注できるよう不適切な工作をした――などだ。 マンションの大規模修繕工事をめぐっては、公取委が今年3月以降、見積もり合わせや入札で、事前に受注業者や受注額を決めていた疑いがあるとして、工事業者など約30社に立ち入り検査に入り、調査中だ。 事件の舞台となったマンションでは、住民になりすました男らの提案を経て、大阪市の大規模修繕コンサルタント会社を選ぶことが決まっていたが、事件で白紙になった。(小寺陽一郎)

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